冷酷男子の溺愛
「物音だすなよ」
「……うん」
同じ学校の生徒とチラホラすれ違うなか、わたしたちはなに食わぬ顔をして家へと戻ってきた。
裏口からこっそりと入り、身支度を済ませる。
しばらくすると……コンコン、と控えめにノックがされて
「出来たか?」
と瀬戸内くんが顔を出す。
「……おっけー、玄関で待ってて」
「うい」
お互いにしか聞こえない声で話して、ついでにジェスチャーなんかしちゃって
少しだけ、ドキドキする。
「あ、待って瀬戸内くん」
まるで忍者のように歩く彼を引き止める。
「お前、声でかいから」
「ごめんごめん」
滅多に小声でしゃべることなんてないからつい、大っきな声が出てしまった。
「で、なに?」
「えっと、何か持っていくものとかは」
「いいよ、普通で……あ、でも動きやすい靴にして。少し遠出するから」
……遠出??
てっきり、行き当たりバッタリで近場を放浪するものだと思っていたのに
彼の頭のなかにはもうプランが出来ているのか。