冷酷男子の溺愛
それから、30分に一度しかない普通電車に乗って、約一時間半。
ゆらりゆらりと揺られながら辿り着いた先には、普段見ない景色が広がっていた。
森や川は、ない。
鳥……もいない。
あるのは絶え間なく広がる建物。
「俺が前住んでたところなんだけど」
「えっ」
今住んでるところとかけ離れてる気がして
「小学校と中学校はここで過ごしてたよ、母親と二人で」
「……そう、だったんだ」
ようやっとのことで相槌をうった。
彼が引っ越してきてから、結構月日が経過している。
わたしのなかでは、唯一といってもいいくらいの頼れる男の人になってるけど
家に来る前の彼のこと、何にも知らなかった。
そのことが少し、ほんのすこしだけ悲しかった。