冷酷男子の溺愛
それからはバスに乗って、目的地に向かっている様子だった。
ねえ、ねえ、瀬戸内さん、瀬戸内さん。
いい加減行き先を教えてもらわないと、不安で不安で仕方がないんですけど。
なに食わぬ顔をして、バスの座席に座りながらもウトウトしている彼を
100均のタッチペンでわき腹あたりを突いた。
「……なに」
さすがにこの攻撃には彼もくすぐったかったようで
こちらを睨んでくる。
「いい加減場所を教えて。教えてくれないなら、まず寝ないで。
乗り過ごすんじゃないかって不安だから」
田舎生まれの田舎育ち。
滅多に電車に乗る機会はなくて、切符の買い方すら知らなくてパニックになって
彼にどつかれるくらい、この地には慣れていない。
……わかってよ、ハラハラしてるの。
無事に着けるか、夜遅くならないうちに家に帰れるかって不安なの。
なのに、この男は……
「家に帰ったら構ってやるから……ちょっと大人しくしてて」
と言って、わたしの頭を撫でた後、寝やがった。