冷酷男子の溺愛




「……わかった、話すよ」


彼は瞳の奥をかすかに揺らして。


最初はすこしためらいがちに、でもポツリポツリと話し始めた。





ーー




「居場所がなかったんだ、あの家は」


目の前の彼を見て、一瞬。

ほんの一瞬、息が詰まったような気がした。


心構えなんて、もうできていたはずなのに、彼の発した言葉は、胸にひどく突き刺さった。


だって……家にいた頃の拓ちゃんからそんな言葉が出てくるなんて、考えもしなかったから。


どうしよう、どうしよう。

本当に、わたしなんかが聞いても良い言葉なのかという気さえして、葛藤した。


オロオロと、気が動転し、思わず机に足をぶつけてしまう。




拓ちゃんは、優しい人だった。

弱音を吐かない強い人だった。

だけど、ほんのすこしだけ、儚かった。




彼の本当の気持ちを知りたい。


そう思うのに


「───だから逃げるように家を出た。全てが窮屈に感じてイチからやり直そうと思って」


自嘲気味に笑う彼の表情と、次々と出てくる言葉は拓ちゃんを知らない人に変えていくみたいで。


わたしは何もわかっていなくて

所詮は子どもにすぎなかったことを痛感した。





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