冷酷男子の溺愛
手を取られたまま、店内を進んでいく。
もう、あれから少し時間は経ってるし第一彼がいつまでもこの店にとどまる理由がない。
きっと、どこか行ったに決まってるよと瀬戸内くんに教えようとしたその時だった。
「───えっ?」
わたしの視線が捉えたもの。
それ、は。
先ほどの席で哀しげな表情を浮かべてうつむいている、拓ちゃんの姿だった。
ーーな、んで、なんで、何で。
拓ちゃんがそんな傷ついたような顔をしてるの。
拓ちゃんの望みどおり、わたしは視界から消えたのに、どうして拓ちゃんがそんな顔してるの。
ねぇ、おかしいでしょう?
「───拓、ちゃん!!!」
だけど、きっと。
おかしいのは、わたしの方だ。
たとえ、どんなに避けられても
たとえ、どんなに拒否られても
拓ちゃんが傷ついてる顔をみたら、足が勝手に───走るの。
自分が傷つくとか、そんなことはどうだっていい。
今度こそ、この手を絶対に離すもんか、って思えちゃうんだよ。
おかしいよね。