冷酷男子の溺愛
「───知、奈?え?お前さっき怒って帰ったんじゃ」
動揺する、彼。
「このまま、帰れるわけがない!拓ちゃんに何も伝えないまま、帰れない、よ」
彼の両頬に手を当てて、この想いがどうか伝わるように、と訴えかけた。
すると、小さく彼の口元が動き出す。
「───俺、も」
「……」
「ずっと会いたくて仕方なかった相手に言った最後の言葉が
『二度と来るな』なんて後で死ぬほど後悔するところだった」
拓ちゃんは、力なく、笑った。
「───っ、」
「拓ちゃん、ごめんね、一人で辛い思いさせてごめんねっ」
わかっていた、はずだった。
『もう、二度と来るな』と言われた時、彼の指先が震えていたことに気づいていたはずだった。
だけど、怖くて。
傷つくことが怖くて、そっぽを向いた。
逃げたんだ。
弱虫って言葉は───わたしの方があっている。