冷酷男子の溺愛
「───知奈」
彼がわたしの名前を呼ぶ。
それはそれは、優しい声で。
「───な、に、拓ちゃん」
わたしが振り返ると、少しだけ哀しげな表情を浮かべた。
「あの頃の俺がもう少し大人で、もう少し子供だったら、知奈にこんな寂しい思いはさせなかったのにな、ごめん」
「……」
吐き出された本音は、どこか矛盾している。
───でも、わたしには痛いくらい伝わってきたんだ。
……大人みたいに、器が大きくて寛大な心があったなら。
……子どもみたいに、素直で純粋な心があったなら。
わたしたちは馬鹿みたいに何年もすれ違うことはなかったということ───
「……拓ちゃん、また遊びに来てもいい?」
「うん、おいで」
ーーやわらかな時間だけが過ぎた。
はずだった。