冷酷男子の溺愛
ーーガタン、ゴトンと電車が揺れる。
……ふと。眠りについていた瀬戸内くんがわたしの方に向き直す。
「…………」
長い沈黙───。
「辛かったか?今まで」
彼はそのまま、わたしの目を見て尋ねた。
その瞳は、すごく澄んでいて、吸い込まれそうで。
「……辛かった、寂しかった」
「……うん」
途切れ途切れに、わたしに本音を吐き出させる。
その時……忘れかけてた記憶が───蘇って、頭がガンガンと鳴り響く。
「どうした?」
「……っ」
痛い。痛い。頭が痛い。
「───本当はずっと、憎んでた」
「……」
きっと頭が痛いのは、ずっと心の奥にしまいこんでいた気持ちを解放するせい。
「家族を捨てた拓ちゃんを帰ってきて欲しいと願う一方で……本当は心の隅できっと……」
ーー置いてかれた、捨てられた。
拓ちゃんにとってのわたしの存在は何なのか考えたこともあった。
でも、それだけじゃ、なくて。
……拓ちゃんを元からいないものとしようと、必死に自分は一人っ子だと言い聞かせたこともあった。
自分だけ知ってればいい黒い感情が、解き放たれてしまった。