冷酷男子の溺愛




だけどよくよく考えてみれば、終わりが来るなんて、当たり前だった。


だって、家族でも、いずれ離れて暮らすことになるのに、ましてや赤の他人。


そんなこと、当たり前。

これが普通なんだ。普通。しょうがないことなんだ。

そう、言い聞かせようとしても、やっぱり、楽しい日々を思い出してしまって。


わたしが変なこと……を、言わなければ、こんな風に別れることはなかったのかもしれないと考えてしまう。


わたしのせいで……



「知奈のせいじゃない、これは俺自身の問題なんだ、ごめんな」


「……なんで」



だけど、キミは、自分の問題なんだ、と言った。

この間の拒絶するような言い方とはうって変わって、優しく、なだめるような言い方。



「───おじさんとおばさんにはもう前から言ってある、今日で最後だ、今までありがとう」



言葉自体は優しいのに、言葉の意味はとても残酷だ。




なんで、なんでなんで。

どうして、どうしてどうして。



彼がその決心をした理由も、哀しい顔をしている理由も、知りたいのに。


そんな時間が与えられなかった。




あなたは本当、ずるい人。

別れ際に、名前を呼ぶなんて、ひどいよ。

最後にそんな優しい声で呼ぶなんて、ひどいよ。



「……」


パタリ、とドアが閉まる。



……あー。


またわたしから、大切な人がいなくなる。



泣きつきて、すがる時間もなくて。

本当、呆気なかった。







< 180 / 321 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop