冷酷男子の溺愛
だけどよくよく考えてみれば、終わりが来るなんて、当たり前だった。
だって、家族でも、いずれ離れて暮らすことになるのに、ましてや赤の他人。
そんなこと、当たり前。
これが普通なんだ。普通。しょうがないことなんだ。
そう、言い聞かせようとしても、やっぱり、楽しい日々を思い出してしまって。
わたしが変なこと……を、言わなければ、こんな風に別れることはなかったのかもしれないと考えてしまう。
わたしのせいで……
「知奈のせいじゃない、これは俺自身の問題なんだ、ごめんな」
「……なんで」
だけど、キミは、自分の問題なんだ、と言った。
この間の拒絶するような言い方とはうって変わって、優しく、なだめるような言い方。
「───おじさんとおばさんにはもう前から言ってある、今日で最後だ、今までありがとう」
言葉自体は優しいのに、言葉の意味はとても残酷だ。
なんで、なんでなんで。
どうして、どうしてどうして。
彼がその決心をした理由も、哀しい顔をしている理由も、知りたいのに。
そんな時間が与えられなかった。
あなたは本当、ずるい人。
別れ際に、名前を呼ぶなんて、ひどいよ。
最後にそんな優しい声で呼ぶなんて、ひどいよ。
「……」
パタリ、とドアが閉まる。
……あー。
またわたしから、大切な人がいなくなる。
泣きつきて、すがる時間もなくて。
本当、呆気なかった。