冷酷男子の溺愛
「────知奈?」
目の前に薄っすらと人影が映り込み、顔を上げればひとりのクラスメイトの中村雅稀(なかむらまさき)の姿があった。
「何、雅稀」
「何じゃないよ、ぼーっとしすぎ、そのまま進むと柱にぶつかるよ」
「……うるさい」
言葉遣いのキレイな彼は、色素の薄いふわりとした髪を揺らしながら、わたしの顔を覗き込む。
「……なに、近い、から」
「うん、わざと」
心配しながらも、まるで悪戯の成功した子供のようにエクボを出して、満面の笑みを浮かべる。
「……ねぇ、どいて、近いって言ってる」
「うんじゃあどくから、なにがあったか言ってみ」
何もかも見抜かれてしまいそうな鋭い眼差しとは裏腹に。
いつまでも聞いていられるような、穏やかで優しい声で、言うから。
……ずるい。雅稀は昔から、本当にずるいやつなんだ。
整ってる顔のくせに、馬鹿みたいにまっすぐな性格をしていて。
鈍感そうなくせに、いちいちわたしの心を察して
核心をつくような質問はしてこないくせに、今みたいに、遠回しに慰めようとしてくる。