冷酷男子の溺愛
わたしが笑えば、雅稀は下唇を噛んだ。
「……」
「教室帰ろう、雅稀」
一歩も足を踏み出そうとはしない、彼。
その場から、動かない。
「……ねぇ、こら、ちゃんと歩きなさーい」
「……」
雅稀は。
馬鹿がつくくらい、優しくて、まっすぐな人だった。
心が綺麗で、穏やかで、少なくともわたしが幼少期をともに過ごしてきた雅稀は、一度だって怒りを露わにしたことがなかった。
「……ねぇ、知奈は俺をなめてるの?」
だから、聞いたこともないくらいの低音ボイスに、体の芯から震えた。
「……え、まさ」
「質問に答えてくれる」
考える、余地を与えない。
キミの声は冷たくて、わたしの声は凍る。