冷酷男子の溺愛
「……知奈、ちょっと時間あるか?」
────ただ、拓ちゃんに声をかけられるまで、わたしはずっと知らなかった。
この世には素直じゃなくて、すんごく照れ屋な人の精一杯の「優しさ」を。
それはすごく、わかりにくいってことを知らなかった。
わたしは彼が好きだった。
時折見せる優しい彼だけじゃなくて、普段の冷たい彼も売れ入れられる自信があった。
ーーでも、そんなのは間違っていて。
「冷酷」で「冷淡」な彼は、決して自分の弱さを見せないための、仮面。
彼、自身の柔らかな優しさに、わたしは気づいてはいなかった。
まだ、知る由も、なかったんだ。