冷酷男子の溺愛
1秒前────
なんだ、これ。
もしかして。え、やだ。
今まで見えていた、世界なんて、簡単にひっくり返る。
もうすぐ、きっと、わたしの予想が、確信に変わることだろう。
連鎖的に呼び起こされる、記憶は、終わりを見せることを知らなくて────
何度でも、突き刺さった。
「おい、知奈、大丈夫か」
どこか遠くで聞こえる声は、昔の彼と、重なる。
わたしの名を呼ぶ彼は、いつだって泣きそうで、切なかった。
「────痛い」
頭が痛い。知ろうとすればするほど、広がる痛み。
痛くて痛くて、止まらない。
そんな時は決まって、言われてきたことがあった。
「辛いなら、もう思い出さないで」
むなしくも。
わたしは全てを思い出してしまった。
良いことも悪いことも、全部。
ただ、それは、自身の意識を手放すのと引き換えにしてのことだった。