冷酷男子の溺愛




「……何、來。せっかくあたしに会えたのに、嬉しくないの?」


キミは顔を傾けて、あの当時の俺だったら少し動揺するような仕草をしてきた。



───はっきり言うけど、嬉しくない。っていうか、むしろ怖いよ。


また、昔の俺に戻されるんじゃないかって思うと、足から崩れ落ちそうだよ。



───足がすくむ。動けない。




もう、嫌なんだ。過去にとらわれて、大切な人を傷つけるのは、たくさんなんだ。




「……來っ」


彼女は、あの日。ひどく雨が降っていたあの日と同じように、俺の名を呼んで、抱きつこうとした。



あの日の俺は

泣き崩れるキミは、弱くて、儚くて、俺がいないとダメだと思ってしまったから


華奢な体を抱き寄せた。




……でも今日は、違う。



知奈を背負う、背中に熱を帯びる。





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