冷酷男子の溺愛
「早く行こうぜ」
そんなわたしの気持ちが、悠に伝わるわけもなく
早く支度をするように促す。
「……」
付き合い始めた頃は
こんな感じじゃなかったのにな。
昔を思い出すと、少しだけ虚しくなっている自分がいた。
「なあ、早く」
前は、こんなにせかしたりもしなかった。
わたしの歩幅に合わせて、一緒に歩いてくれるような
優しくて、あったかくて、安心出来る人だったのに……
「あれ、さゆじゃん、今帰り?なんなら一緒に帰る?」
ーーいつの日にか、こんなにも残酷な人間になっていた
さゆ、と呼ぶ女の人はこの間も悠と二人で遊んでいた人の名前で。
あなたの瞳に、わたしは映っているのだろうかと不安になる。
いや、でももう不安なんていう言葉では足りなくて
絶望と言った方が正しいのかもしれない。
彼女という立場にいるわたしも
所詮、彼にとっては都合のいいだけの女なのだと思うと悔しくて
虚しくて……なんか、もうわからなくなってきた。