冷酷男子の溺愛
彼はなんの前触れもなく、いなくなった。
わたしは彼に、「ありがとう」も「さようなら」も、何ひとつ声をかけることができなかった。
彼の顔を思い出そうとすると、眉をひそめる苦しそうな顔しか思い出せなくて
それがわたしにとっても苦しかったから、次第に思い出さないようになっていった。
春が過ぎ、冬を越えて、だんだんと。
確執が出来た男の子たちとは、心から和解するわけでもないが、喧嘩をするようなこともなくなっていった。
ただ当たり障りのないように、時間を過ごし、無事に卒園した。
どこかへ行ってしまった彼の名前は、卒園式で呼ばれるはずもなく、わたしの頭のからも次第に離れていった。