冷酷男子の溺愛
……そして、中学一年の夏。
この日の出来事が、わたしの歯車を動かした。
それは、家庭科の授業の一環で保育園の見学に行った時のことだ。
クラスごとに、様々な保育所に割り振られ、園児たちと交流をする授業で
わたしは見事、自分の通っていた保育所に当たった。
その時に渡された一枚の手紙が、揺さぶりをかける。
『おとなになったらむかえにいくから』
手紙に書かれていたのは、この一言だった。
名前もなく、誰が書いてくれたのか、わからないような手紙だったけど
これは何度も何度も何度も、聞いたことがある言葉だった。
何度も聞いたことがあるけど、慣れることなんてなくて、毎回、この言葉を聞くと、どうしようもなく泣きたくなるのだ。
なんでだろう、考えても考えても答えなんか出なくて、やり切れなさだけが募っていく。