冷酷男子の溺愛
彼が欲しがっていたものは、自分だけを見て、自分だけを愛してくれる女。
従順で、浮気しても怒らなくて、全部自分の思い通りにできる都合のいい女。
「他の男なんかに、愛想を振りまくな」
「───痛ったい」
彼のプライドを傷つけたからだろうか。
無心でわたしを殴り続ける悠。
また一発、また一発と、頬には痛みが広がる。
最後の一発の衝撃で、足元から崩れ落ち、壁に寄りかかった。
『好きだよ』
『知奈は笑顔がいちばん』
ぼんやりと視界が霞むなか、思い浮かぶのは優しかった頃の彼の言葉。
もう、今となっては、なんの未練もないけれど
「───お前、もういらない、消えろ」
あの時間も、あの言葉も、あの笑顔も
全部全部ウソだったのかと思うと
涙が溢れ出た。
ーー永遠なんて、存在しない
ーー人は変わる
日々、自分に言い聞かせながらも、どこかでまだ永遠を信じたかった。
どんな時も、そばにいてくれる人のぬくもりを忘れたくなかった。
だからわたしは、裏切られた時に傷つかないで済むように
心のなかでその言葉を唱え続けていたのかもしれない。