冷酷男子の溺愛
帰り道。
「ーーいい年しておんぶなんてヤダよ、恥ずかしい」
「うっさい、ちょっと黙ってろ」
ほぼ強制的に
彼の背中に乗せられて、家までの道筋をたどっていた。
「触られるの無理って散々言ってたくせに」
「お前には女を感じないから平気って言ってんだろ」
お互いに、さっきあったことをなかったかのように振舞って。
……わたしは少し速くなった鼓動を悟られないように。
いつもとは違うキュっとする、なんとも言い表すことのできない気持ちに
気がつかないように、ごまかすように、話し続けた。
「ーーなんでダメなの」
「うっさい、じんましん出んの、体が拒否ってんだよ」
「はは、繊細すぎっ!
やったあ、瀬戸内くんの弱点発見───」
容姿端麗、運動神経もよくて
普段何にも動じることのない
完璧な人の唯一の弱点を見つけた。
ーーでも
「俺の弱点は、お前だよ。
こんなに必死になるのも、自分を抑えられなくなるのもな」
彼は、わたしだと言った。
わたしを傷つけられることが何よりも弱点なんだ、と。
彼の弱みを掴んだはずなのに、なんだかわたしの弱みも掴まれてしまったような、変な気持ちだった。
少しだけ、染まる頬。
彼の顔は、前を向いていて見えないけれど
ーーキミは今、どんな顔をしているのだろう