冷酷男子の溺愛
頭に触れられていた手が、そっと頬へと降りてくる。
「───」
赤青くなってる頬を、ただ黙って何度も何度も撫でた。
「───もう、あんな男は忘れな」
「……」
まっすぐ前を見据えて、まるで壊れ物でも扱うように触れるから
不覚にも、胸は高鳴って、大事にされているのだと錯覚しそうになる。
ついこの間まで、悠が好きで
彼が浮気を繰り返すたびに堪らなく心臓が痛かったのに
どうしてわたしの心は、もう違う人を捉えているのだろう。
「いい?きっと、これからいい人に出会えるから」
「……」
───でも、そんな気持ちはきっとわたしだけで。
自分に好意を向けられることを遠回しに拒否している言い方に
ズキンと少し、胸が痛んだ。
「……ど、うした?」
「いや、何でもない」
さっきの、彼の突き放した言い方に傷ついたなんて言えなくて
「───あ、りがとうね、今日は」
わたしはまた、誤魔化し続ける。
「ん、また明日学校あるけど、行ける?」
「大丈夫だよ、平気平気」
縮んでいるようで、なかなか縮まない彼との距離。
いつだって手探り状態で、何かひとつでも障害物を見つけるとお互いに避けて通る。