冷酷男子の溺愛
ーー
体育館の近くまで来ると、声が鮮明に聞こえる。
「……二度と近づくなって言ったよな、俺」
「 てめえには関係ねえだろ」
絶え間なく、低く怒鳴り散らしたような声が広がって
「───」
終いには人の肌と肌がぶつかる音がした。
今目の前で起きていることを呼び止めなければいけないはずなのに
怖くて足が震えて二人のもとに、行けなかった。
ナミとゆっちゃんが体を支えてくれないとその場に倒れてしまいそうで。
こんなにも自分が情けないとは思わなかった。
「痛ってえな」
舌打ちをして怒鳴る悠の声が聞こえたから、瀬戸内くんが殴ったのだろうか。
「……3発だ」
「は」
「お前が彼女を殴った回数」
怒り狂っている悠とは違い、瀬戸内くんの声は冷静そうに聞こえたけど
その声は、腹の奥深くから出ていて、背筋が凍りそうなくらい
低く、怖い、声だった。