あの夏の日をもう一度
私はまた、境内でぼーっとしていた。
「なんじゃ、お主また来たのか」
「坊さん!」
私は振り向いて、笑顔で坊さんを迎えた。
坊さんは気持ち悪といいながら私の隣に座って、道具の掃除をし始めた。
しばらくの間、沈黙が続いた。
「なんかあったのか、あの妖精と」
いきなり声をかけられて飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「ぐはっ、何言い出すんだよ
坊さんも心読めんのか?」
「お主の顔に書いてあるわい」
幸三は相変わらず道具の掃除を続けている。
私は話すことにした。
「セムナイに悪いことをした。
生前の記憶をすべて思い出したんだ。自殺する前の自分を見た。大切な人の死も目の前でみた。妖怪になったのにまた、大切な人を失って、もうどうしたらいいか分かんなくて....セムナイも失いそうで。
失うならいっそ、大切な人になるまえに離れればもう辛くないと思った。
どうすればいいかわかんないんだよ。」
幸三は黙って聞いていた。
どんどん私は取り乱していた。
「志帆、志帆!ごめんなさい。
許して、お願い。
いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
私の目の前に幸三はもう写っていなかった。私の目の前にあるのは志帆のトラックにひかれた前の顔だった。
私はすぐ近くにあった。刀をさやからだし首に突きつけた。もう死ねないとわかっているのに、もう一度死んでいるのに。
「やめろー!その刀はこの神社に伝わる妖刀だ。消滅するぞ!」
もう幸三の声なんて聞こえなかった。
首から出るはずのない赤い血がつたった。
「だめーーーー!」
声と同時に私は後ろから抱きつかれた。
すごく小さな力だったのに私は前に倒れてしまった。
私の目に光がやどった。小さくて、頼りないそんな光が。
「....せ、セムナイ」
「バカ!何してんのよ!私は居なくなったりしない!信じて。ずっとそばいいる」
セムナイは私の右手を掴んだ。
右手からすごい小さい温もりを感じた。