あの夏の日をもう一度
「大丈夫でしょうか、神琴は」
「たぶん、大丈夫ないだろうな。心の奥底に鉛のようなものを抱えている。取り除くことができなければ、また死を望むだろ。」
神琴が出ていったあと二人は残っていた。二人とも神琴のことで頭がいっぱいだっ
た。セムナイに至っては泣きそうな顔をしている。幸三もいつもふざけている顔をしているがこのときは真剣な眼差しでふすまの向こう側を見つめている。
「この妖刀はきっと彼女が大変なときに助けてくれるはずじゃ」
「私はなにもできない。私は無力なんだ。」
「そんなことない。お前さんがそばで神琴を支えるのさ。」
「...うん。.....てか、なんでお坊さん私のこと見えてんの?」
「いまさらっ!」
私は川へ向かった。
「よっ!神琴、久しぶりだな」
「河童ぁー!久しぶり!!」
川につくと河童が川の中から、顔をだしていた。最初は怖かったけど、今じゃもうすっかり慣れた。
「ひゃっ、冷たい!」
河童は不意に私に水をかけてきた。
わたしも川の中にはいって河童に水をかけまくった。その瞬間だけは過去も今も忘れることができた。私はここにいると実感できたんだ。
一段落つき、河童とともに私は川辺に座っていた。
「なんかあったか」
河童はいつもそうだ。私が落ち込んでるとなにか元気つけてくれる。そして、静かに理由を聞いてくれる。いつもはここで答えてしまうのだが、今日は違う。
もし、過去の話をしたら河童に嫌われてしまうかもしれない。いや、森の住人全員に嫌われてしまう。そんなの絶対いやだ。
「話したくなかったら話さなくていい。
これを飲め!元気でっから。」
そういうと河童は川の水をくれた。そういえば、健人と会ったのはここだったな。
「これは生命の水なんだ。
これを飲めばどんな病もなおすんだぜ!」
「...ありがとう」
私は河童に笑顔をかえした。河童は顔を少しあかめているような気がした。
「んじゃ、行くね!」
「おう!また来いよ」
「うん」
「ただいま」
「おかえり、神琴」
私が神社に帰ると幸三が迎えてくれた。神社はすっかり私の家とかした。
「セムナイは?」
「いるよ」
それを聞き、私は急いで中に入った。そしてふすまを勢いよくあけた。
「おかえり、神琴」
そこには、大切な人が待っていた。
いつもと変わない笑顔で
「ただいま!」