あの夏の日をもう一度
「セムナイ、おかえり。
今日は早かったね。」
「う...ん、幸三さんいる?」
いつも、村に出ると5時間くらい帰ってこないセムナイは今日はたったの1時間くらいで帰ってきた。しかも、てには何も持っていなかった。こんなにもあたふたした様子で落ち着きがないセムナイは初めて見るかもしれない。なんだか、こっちの方がそわそわするくらいだ。
「なんかあったの?」
「....へっ?....なんでも...ない...よ」
やっぱり、不自然だ。こんな歯切れの悪さを信じることはできない。
「はけ!なにがあったの」
私はセムナイの頬をつねった。
「イタタタタァー!
わかったわかった。全部言うけど、約束してこれを聞いても取り乱さないって。」
「うん。」
「健人くんがこの村に帰ってきたんだって」
私はなにがなんだか、分からなくなった。けれど、足が勝手にうごいて気づいたら神社を出て、村に向かっていた。
「.....健人、健人!」
私はただ、会いたくて。ただ、声を聞きたくて。ただ、ただ、がむしゃらに足を動かした。
「...健人」
村に行く前に私は大切な人を見つけた。健人はこちらに向かってきている。私も健人のほうへ足を進める。
「健人、ひさしぶ....健人?」
私は健人に手を出したが、その手は昔よく繋いだ健人の手を通り過ぎてしまった。
「だれかいませんか?」
よく見ると、昔とは全然違う。背も私より高くなって、手も骨ばっていた。声だってすごく低くなっていて、''男の子''って感じだった。私も背も伸びたし体つきだってとっくに''女の子''だ。けれど、私の心は変わってない。健人は変わっているのに。取り残されているように感じた。私はその場に入れなくなって、逃げ出した。
「約束を守りにきた」
健人は神社に向かった。神社に行くと幸三が掃除をしていた。
「坊さん!お久しぶりです。」
健人の声に気づいたのか、幸三は振り返って健人にてをふった。
「健人!久しぶりじゃ。大きくなったの」
幸三はこちらにこいと手招きして神社に招待した。
二人は隣り合わせで座った。
「神琴には会ったのか?」
健人は覚えているはずないのに、幸三は少しの希望をのせて質問した。
「....神琴?」
帰ってきた答えは思っていたどうりで少し悲しくなった。
「いや、なんでもない。なぜここに来た?」
「俺もよくわかんないんだよ。けど、誰かとここで約束したんだよ、迎えに来るって。その約束を果たしにきた。」
幸三はおどろいた。妖怪との記憶はすべて忘れるとセムナイから聞いていたからだ。
でも、それと同時に嬉しかった。
「ありがとう」
「はい?なんで、坊さんに感謝されてんだ。」
「こっちの話だ。それより大きくなったの」
それから、2人は少しの間話をした。
「んじゃ、帰んね。また来る」
「おう、じゃな」