あの夏の日をもう一度




「神琴!どこにいるの神琴」
全然帰ってこない、神琴を心配してセムナイは探し回った。あてのあるとこはすべて探した。滝の近くに洞窟の中、村にも出て探し回った。けれど、どこにもいなかった。もしかしたら、もう帰ってると思い神社に帰っても、幸三が掃除をしているだけだった。幸三はこちらに気づいて手を振ってくる。セムナイは思わず泣き出してしまった。急いで駆け寄ってきた幸三は優しくセムナイの背中をなでた。
「神琴がいないの」
「なにがあったんじゃ?もしかして、健人
か」
「うん。」
「今は一人にしてやろう。大丈夫、あの子は帰ってくるから」

「健人....。」
あのときの健人の目には私はうつっていなかった。私は健人と初めてあった川に向かっていた。ついたら、緑が生い茂っていた。そういえば、もう夏か。健人とあった時もたしか、こんなふうに緑が生い茂っていたな。私の時間はあの時から止まったまんまだったんだ。そう思うと不意に涙がこぼれた。止めることはもうできなかった。溜まっていたなにかが流されるようなそんな感覚。
「健人」
口からポロッと出た言葉。
私、こんなにも弱かったっけ。みんなに心配かけてみんなに迷惑かけて。早く帰ろ、帰ってまた、みんなとご飯を食べよう。何事もなかったことにしよう。
私は立ち上がって、歩こうとしたとき足が滑って川の中に落ちてしまった。川は思ったより深く、もがくことしかできなかった。
「だれか助けて」と言いたいのに声にならない。やがて力が尽きて川の底へ沈んでいった。

「美紅ちゃん!美紅ちゃん!」
「....志帆?」
目を開けると川辺に横たわっていた。どうなっているかはわからないけど、一瞬、志帆の声が聞こえた気がした。けれど、周りにはだれもいなかった。
「気のせいか、それより早く帰んなきゃ」
あたりはすっかり日が暮れ、真っ暗だった。きっとセムナイと幸三は探し回っているだろう。わたしを探している二人の姿が頭に浮かんだ。
立ち上がろうとしたとき、足首に痛みが走った。足首を見るとものすごく腫れていた。これじゃ歩けない。
「どうしよ」
とりあえず、冷やそうと水の中に足を入れてみることにした。すると、みるみるうちに足の腫れがひいてもとの足に戻っていた。
「...なにこれ、すごい」
私は川に目をやると蛍が何十匹も光を放ってた。
「って、見入ってる場合じゃないわ。」
我に戻ると私は神社に走った。

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