あの夏の日をもう一度
「お願い、サグジ!力を貸して。」
「それは無理だ。」
そういって、サグジは姿をくらましてしまった。
「そんな...」
私はなんにもできないまま取り壊す日になってしまった。それまで、毎日サグジに会いに行ったが、これっきり顔を出してくれなかった。セムナイはここで最後を終えるといって工事が始まっても神社を出ようとしなかった。幸三は最後まで拒み、神社に閉じこもってやるといっていた。私は最後のお願いをしに、サグジのもとを訪れた。
「サグジ、お願い。時間がないの
嫌よ、このまま終わりたくない。幸三もセムナイも河童も木たちも人魚もあなたもやっと見つけた。大切な人なの。だからお願いよ。」
私の想いが届いたのか、サグジは私に顔を出した。そして、ただ一言を言った。
「私はこの森の守り神を名乗る資格はない」
この意味は私でも容易にわかった。
「もしかして、鬼に渡したの?
そうなのね」
わたしも詳しくは知らないが鬼とは森の奥深く、山のてっぺんに封印されていた妖怪で櫻雷によって実態は引き離されたが、魂だけ成仏できなかったそうだ。けれども魂だけで、水や大地を動かすだけの妖力をもっている恐ろしい妖怪である。そいつの封印が解かれたいま、きっと神社だけでなく森も破壊されてしまう。
「この森が人間のものになってしまうのならば、私の手で壊してしまおう。もう終わりだ。だれにも止められない。」
「私は絶対に諦めない。約束したの!
健人が帰ってくるまでこの森で待ってるって!ずっと待ってるって!」
私は走り出した。みんなが待ってる神社へ