あの夏の日をもう一度
「...健人、絶対止めて帰ろう」
「うん」
河童のことがあって、わたし達の決心はより一層強くなった。
そのとき、
「ドドドドドドドドッ」
「また、地鳴りだ!」
「見て、健人!あれ」
健人は私の指をさした方へ目を向けた。
四角石段から紫の光が漏れ出ていた。
「あれを斬れば、終わる」
私たちは、石段に向かってあるいた。けれど、近づくたびに私たちを拒むように強い風が襲う。それでも、歩みを止めなかった。すべては大切な人のために。
「ついた」
二人はやっとたどりついた。
たどりつくとすぐさま神琴は刀を振り上げた。私の手は何が起こるかわからない不安で震えていた。そのとき、私の手にもう一つのてが重なった。
「大丈夫、神琴は一人じゃない。」
2人は刀を一斉に振りおろした。
すると、石段から黒い光が出てきて2人を覆った。黒い光の中で二人ははぐれてしまった。
「神琴!」
「健人!」
ふたりの声が重なったとき、ペンダントが光りだした。そして、黒い光をすべてはらった。ペンダントが二人をつないだ。
「健人...」
二人はいつの間にか空の上にいた。二人はお互いに手をとり、お互いに引き寄せあった。
「ごめん、神琴。少し疲れちった」
健人は力ない笑顔をこちらに向けて、そのまま目を閉じた。
「おやすみ」
遠くから、大きく白い何かが見えた。
なんだろうと目を凝らすと蛇のように長いが蛇ではないなにかが見えた。少し近づいてやっと見えてきた。
「龍!」
そう、それは幻想の中でしか生きていないと想われていた、龍だった。
龍は私たちのそばでとまった。そして、乗れと言わんばかりの目をこちらにむけた。
私はそれにしたがい、龍の背中に健人と腰をおろした。
龍は私たちを乗せて山に帰っていた。私はなぜか懐かしさを感じていた。その正体はなにかはもうわかっていた。
「...志帆なのね」
龍はこくりと頷いた。私は決して驚くことはしなかった。気づいていたんだと思う。あのとき川から救い出してくれたのが、志帆だということに。
「志帆、ごめんね」
「謝らないで、私はずっと一人だったけど美紅ちゃんがいてくれたからがんばれたの。ありがとう。それに私は志帆じゃないよ。今は、''美紅''って名前なの。生前のことを思い出す前から決めてた。わたし達は繋がっていたのね」
「私も、私も今は神琴っていうの」
「いい名前ね」
他の人には、きっとただの鳴き声にしか聞こえないのだと思う。けれど、私には何言ってるかわかる。心と心でずっと繋がっているから。
わたし達は山の生命の水が流れる川に降りた。
「神琴、私は先行くよ。先に成仏して待ってる」
「私も一緒に」
「だめよ、あなたはやることがあるでしょ」
龍の目は健人に向けられていた。
「いい人ね」
美紅の体は光を放ち始めた。
見る見るうちに、美紅の体は透け始めた。
「またね、神琴」
美紅の体は私たちが救った青空に消え去っていった。