怖がりな君と嘘つきな私
「…あれ?」

空いてる。
モンゴリアンチョッパーズの楽曲を口ずさみながら、マンションの鍵穴にキーを差し込み回すと手応えが全く感じられない。

そっとドアを開けて、中を覗き込むと、薄暗く冷えた部屋の奥、突き当たりのベッドからチラリと金髪頭が見えた。

「ちょっと、ナル? 仕事どうしたの?」

きつくなったハイヒールを片方ずつ脱ぎ捨てて部屋に入りながら、少し大きな声をかけた。
コートを脱ぎながらベッドに近づくと、ベッドの中からくぐもった声がする。


「休んだ」

「うそー。今日、モンゴリアンチョッパーズ出るから行こうと思ってたのに。てか、店は大丈夫なの?」

「拓海に任したから、へーき」


金髪頭のナルがもぞもぞと返事をする。
こもった声は、なんだかひどく心細げ。

なんかあったな。

私のピンクの枕に顔をうずめたまま、顔をあげないナルを見ながら、今回は何があったのだろう、と考える。

少なくとも昨夜電話で話した時は普通だった。
ナルの場合、普通といっても、かなりぶっ飛んでるんだけど、まぁいつも通りのナルだったことは間違いない。

「明日、花穂の好きなモンゴリアンチョッパーズだからな、来いよ。8時頃かな。着いたら、電話しろよ。ビールおごってやる」

そんなことを言っていた。
モンゴリアンチョッパーズ、ナルだって気に入ったし、かわいがってたし、楽しみにしていたはずなのに。

< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop