僕は悪にでもなる
僕は、教官に暴言を吐いた罪で懲罰を受け独房行きとなった。
1週間閉じ込められる。
その間面談を受けたが結局、僕が言うことは信じてくれない。
院生全員面談を受けたようだが上田直樹以外は全員否定。
しかしあの鬼は担当から外れたようで
少しは信じてくれたみたいだ。
そして僕は、狭い独房でただぼーっとぼーっと時を過ごした。
集団寮へ戻る時がきた。
長い長い廊下を進みドアの前へ。
扉が開いた。
新しい担当が院生達に背をむけてこっちに歩いてくる。
監視が僕に向いている間に、院生達は強烈な目つきで僕を見ている。
監視の隙を全部失くしてやった。
空気を一変させていった。
院生達が守ってきたものを全部壊してやった。
睨んでくる院生達の目には憎しみ。憎しみ。憎しみ。
僕も目をはなさなかった。
「中に入れ。」
そう言われて部屋にはいり、私物を片づけた。
どこか、いつもと空気が違う。
以前より増してピリピリとしている。
みんなの憎しみが僕に向いていることがはっきりとわかる。
今にも暴動がおきそうだ。
教官も以前より増して慎重に、慎重に監視をしている。
そして教官の一言で食事をする場所へ全員がでた。
今日はたまたま週に1度のチクリ集会の日。
誰も手をあげない。
静かな時間がただ流れる。
すると教官が重たい口を開いた。
「先週おきた事件は、何が本当で、何が嘘かわからない。何も証明できない。
しかし、あの日からこの集会での発言が急に減ったのは事実だ。
私も監視の仕方や院生達への意識の持ち方を変える。
それに、どうも最近、寮内がピリピリとしている。
例え本当に君らが監視の隙を巧みに作り出し、雑談をしストレスを発散していたとしても
今のこの空気、ストレスがたまって、今にも暴動がおきそうなこの重たい空気を感じていると、私は以前のままでよかったのかもしれないと思う時もある。
しかし、君らは罪を犯してここにきた。
ここのルールに従ってもらうしかない。
暴動など起こせばいつ社会に戻れるかわからなくなるぞ。
いいか。肝に銘じておけ。」
そう言って院生達は、腑に落ちない表情で、就寝準備にはいり、点呼をとり、寝床についた。
それからの寮内の雰囲気は悪くなる一方だ。
みんなストレスがたまり、目つきがかわり、
仮面が剥がれていく。
院生達はストレスの発散先を奪われた。
チクリ集会はいつもどんよりとした空気。
誰も何も言わない。
緊張感が高まっていく一方。
原因はもちろん俺だ。
みんな、俺を狙ってる。
チクリ集会で嘘をでっちあげ、監視のカモにする攻撃から
バカバカしい嫌がらせに変わる。
寝床に戻ればいつも、たたんだ布団がずれている。
筆箱が棚から落ちている。
ならべたスリッパがずれている。
配分された飯が少ない。
イライラが積もる。
睨んだ目に逢えば強烈な憎しみが誕生する。
一体どっちがよかったんだろう。
仮面をかぶったやつらの顔を見るたびに噛みつきたくなっていた。
今は仮面をはずしたやつらの目を見るたびに殴りたい。
憎しみが離れない。
行進中に後ろのものがわずかにあててくる手や足。
就寝準備が終わりそれぞれが寝床に移動するとき、
俺の布団や枕を踏んでいく。
もう今やあれだけ癒された静寂な時間も、憎しみに食われちまった。
あれだけ楽しみにしていたテレビや映画の時間も。
熱いお茶も、青い空も。
風呂場の監視の隙を狙って肩をぶつけられた時には、
いよいよ貯めていた憎しみが爆発しそうになる。
どこにいても、何をしていても、いつも近くに憎き院生がいる毎日。
癒される時間はすべて悪き感情に飲み込まれ、
僕は、ただただ苦しい毎日を送る。
顔に出せば刑務官にどなられ、さらにストレスがたまる。
わずかな楽しみもすべて失い、厳しいプログラムにそって日々を過ごす。
悲しくつらい毎日。孤独感も増す。
ついに僕は、そんな生活に限界がきたのか、体調を崩し始めた。
寝れない毎日。続く頭痛や吐き気。
顔色は悪くなり、目元には隅ができ、
吹き出物が顔を出す。
熱もで始めた。ここでは38度を越えなければ休ませてくれない。
それでも続く過酷な労働。
孤独感と苦しみを憎しみに変えてごまかす。
言われるがままに行進し、言われるがままに労働する。
ここには自分を救ってくれるものは何もない。
そう思いながら日々を過ごす僕。
憎しみに変えて人を恨むことしかできない。
心も体も弱っていく一方。
弱り切った心と体に、止めを刺すように、歯に激痛が走る。
廃人だった頃からほっておいた虫歯が、進みに進んで今や歯が腐っている。
虫に食われて痛む歯はもう半分しかなく、残る歯も今にも崩れそうだ。
熱をもった体に膨れ上がる歯肉。
毎日毎日、とにかく痛い。
痛くて痛くて仕方がない。
どんなに痛くても手足がしびれんばかりと寒く過酷な労働に耐える。
ハンカチを噛みしめて、噛みしめてしのぐ。
ある日の夜中。変わらず眠れない。
続く歯の激痛。
そして寒気がして関節が痛い。
あきらかに熱が上がっていることに気づく。
明日熱を図り、やっと治療できると思った。
トイレに行きたくなって、布団をめくると
どこまでも寒く、頭痛が走る。
ふらふらと立ち上がり、トイレに向かった。
ぼやけた目線をなんとか焦点を合わせながらふらふらと歩く。
トイレに2人分のスリッパが並んでいる。
3人までは入ってもいいので、そのままスリッパをならべて中に入る。その瞬間目に入ったのは、
腹を抱えて、前かがみになった上田直樹。
その前に立っている者は、あの教育係だった金沢。
「上田!」
唸りながら振り向いた。
「これが、復讐だよ。
お前が懲罰に行った日からずっと、こいつはトイレで誰かに出くわすたびに
こうやって殴られている。
これからもずっと続く。
お前には嫌がらせでストレスを、こいつには苦しみと痛みを。
ちくったって無駄だ。全員で否定する。
お前らを除きすべての寮生がまとまった。
こいつが殴られるのはお前のせいだ。
お前の復讐が、俺らの復讐を生んだ。
ただお前を痛めるより、お前はこうして、こいつが苦しむ姿を見るんだ。
これからもずっとな。
これが俺らのやり方。
全部、お前のせいだ。」
そう言った。
「上田。なぜ言わなかった。」
上田直樹は息を整いて口を開けた。
「言ったらお前また、懲罰に行ってしまう。
憎しみは憎しみを生む。だろ?
お前には知られたくなかった。
俺が心配ない。このくらい。
夜中に、毎日腹筋してんだ。
痛くもかゆくもないよ。ずっと耐えられる。
俺は嬉しかった。ずっと一人だったのに、俺のために。
あの時に比べたら今の方がよっぽど楽だ。
俺は心配ないから、手だすなよ。」
「くそ。」
心でつぶやく・
「俺の、せいで。俺の復讐がお前にも向いてしまった。すまん。」
僕が、そう言った瞬間。
「どんっ」
腹に突き刺さる重たいこぶし。
息ができない。
腹を抱えて前かがみになる。
深い痛みが込み上げる。
深い怒りがねみりこむ。
「んん。。。」
痛みを、怒りを、歯を食いしばってこらえる。
その瞬間、残った半分の歯が折れた。
膨れ上がった歯茎が爆発し、血があふれだす。
「こいつはお前のせいでこの痛みと怒りをこれからずっとくらんだよ。」
僕は、その言葉が耳をかすめた瞬間人格を失った。
抱えきれない怒りが打ち上がった。
僕は、息ができなくて腹を抱え前しゃがみになった体を起こす。
ポケットからハンカチをだす。
そしてハンカチの隅を握った。
小さなものでも何かを握った拳は衝撃力が増す。
「そう。憎しみは憎しみを生む。永遠に。」
そう僕が言って、力一杯にハンカチを握った拳を
金沢の憎き顎を横殴りした。
脳が揺れて金沢はふらふらと。
さらに頭突きをして脳を揺らした。
ぶっとんだ金沢は、そのまま大便の便器に顔から倒れ込んだ。
僕は、その上から踏んだ。何度も何度も。
「あああああーーーーーーーーー」
発狂しながら。
人格を失った僕は、止まらない。
僕は、殺してしまってもいい。そう思ったかもしれない。
和式の便器にたまった水が少しずつ少しずつ赤く血にそまっていく。
何度も何度も踏み続ける。
鳴り響く警報。
駆け付ける刑務官。
僕をひっぱりだそうと、服をつかむ。
次から次へと刑務官が入ってくる。
僕は、すべて見えず、聞こえずただ踏み続ける。
そんな僕は、ついに、後頭部を警棒でどつかれて抑え込まれた。
そして意識を失った。
1週間閉じ込められる。
その間面談を受けたが結局、僕が言うことは信じてくれない。
院生全員面談を受けたようだが上田直樹以外は全員否定。
しかしあの鬼は担当から外れたようで
少しは信じてくれたみたいだ。
そして僕は、狭い独房でただぼーっとぼーっと時を過ごした。
集団寮へ戻る時がきた。
長い長い廊下を進みドアの前へ。
扉が開いた。
新しい担当が院生達に背をむけてこっちに歩いてくる。
監視が僕に向いている間に、院生達は強烈な目つきで僕を見ている。
監視の隙を全部失くしてやった。
空気を一変させていった。
院生達が守ってきたものを全部壊してやった。
睨んでくる院生達の目には憎しみ。憎しみ。憎しみ。
僕も目をはなさなかった。
「中に入れ。」
そう言われて部屋にはいり、私物を片づけた。
どこか、いつもと空気が違う。
以前より増してピリピリとしている。
みんなの憎しみが僕に向いていることがはっきりとわかる。
今にも暴動がおきそうだ。
教官も以前より増して慎重に、慎重に監視をしている。
そして教官の一言で食事をする場所へ全員がでた。
今日はたまたま週に1度のチクリ集会の日。
誰も手をあげない。
静かな時間がただ流れる。
すると教官が重たい口を開いた。
「先週おきた事件は、何が本当で、何が嘘かわからない。何も証明できない。
しかし、あの日からこの集会での発言が急に減ったのは事実だ。
私も監視の仕方や院生達への意識の持ち方を変える。
それに、どうも最近、寮内がピリピリとしている。
例え本当に君らが監視の隙を巧みに作り出し、雑談をしストレスを発散していたとしても
今のこの空気、ストレスがたまって、今にも暴動がおきそうなこの重たい空気を感じていると、私は以前のままでよかったのかもしれないと思う時もある。
しかし、君らは罪を犯してここにきた。
ここのルールに従ってもらうしかない。
暴動など起こせばいつ社会に戻れるかわからなくなるぞ。
いいか。肝に銘じておけ。」
そう言って院生達は、腑に落ちない表情で、就寝準備にはいり、点呼をとり、寝床についた。
それからの寮内の雰囲気は悪くなる一方だ。
みんなストレスがたまり、目つきがかわり、
仮面が剥がれていく。
院生達はストレスの発散先を奪われた。
チクリ集会はいつもどんよりとした空気。
誰も何も言わない。
緊張感が高まっていく一方。
原因はもちろん俺だ。
みんな、俺を狙ってる。
チクリ集会で嘘をでっちあげ、監視のカモにする攻撃から
バカバカしい嫌がらせに変わる。
寝床に戻ればいつも、たたんだ布団がずれている。
筆箱が棚から落ちている。
ならべたスリッパがずれている。
配分された飯が少ない。
イライラが積もる。
睨んだ目に逢えば強烈な憎しみが誕生する。
一体どっちがよかったんだろう。
仮面をかぶったやつらの顔を見るたびに噛みつきたくなっていた。
今は仮面をはずしたやつらの目を見るたびに殴りたい。
憎しみが離れない。
行進中に後ろのものがわずかにあててくる手や足。
就寝準備が終わりそれぞれが寝床に移動するとき、
俺の布団や枕を踏んでいく。
もう今やあれだけ癒された静寂な時間も、憎しみに食われちまった。
あれだけ楽しみにしていたテレビや映画の時間も。
熱いお茶も、青い空も。
風呂場の監視の隙を狙って肩をぶつけられた時には、
いよいよ貯めていた憎しみが爆発しそうになる。
どこにいても、何をしていても、いつも近くに憎き院生がいる毎日。
癒される時間はすべて悪き感情に飲み込まれ、
僕は、ただただ苦しい毎日を送る。
顔に出せば刑務官にどなられ、さらにストレスがたまる。
わずかな楽しみもすべて失い、厳しいプログラムにそって日々を過ごす。
悲しくつらい毎日。孤独感も増す。
ついに僕は、そんな生活に限界がきたのか、体調を崩し始めた。
寝れない毎日。続く頭痛や吐き気。
顔色は悪くなり、目元には隅ができ、
吹き出物が顔を出す。
熱もで始めた。ここでは38度を越えなければ休ませてくれない。
それでも続く過酷な労働。
孤独感と苦しみを憎しみに変えてごまかす。
言われるがままに行進し、言われるがままに労働する。
ここには自分を救ってくれるものは何もない。
そう思いながら日々を過ごす僕。
憎しみに変えて人を恨むことしかできない。
心も体も弱っていく一方。
弱り切った心と体に、止めを刺すように、歯に激痛が走る。
廃人だった頃からほっておいた虫歯が、進みに進んで今や歯が腐っている。
虫に食われて痛む歯はもう半分しかなく、残る歯も今にも崩れそうだ。
熱をもった体に膨れ上がる歯肉。
毎日毎日、とにかく痛い。
痛くて痛くて仕方がない。
どんなに痛くても手足がしびれんばかりと寒く過酷な労働に耐える。
ハンカチを噛みしめて、噛みしめてしのぐ。
ある日の夜中。変わらず眠れない。
続く歯の激痛。
そして寒気がして関節が痛い。
あきらかに熱が上がっていることに気づく。
明日熱を図り、やっと治療できると思った。
トイレに行きたくなって、布団をめくると
どこまでも寒く、頭痛が走る。
ふらふらと立ち上がり、トイレに向かった。
ぼやけた目線をなんとか焦点を合わせながらふらふらと歩く。
トイレに2人分のスリッパが並んでいる。
3人までは入ってもいいので、そのままスリッパをならべて中に入る。その瞬間目に入ったのは、
腹を抱えて、前かがみになった上田直樹。
その前に立っている者は、あの教育係だった金沢。
「上田!」
唸りながら振り向いた。
「これが、復讐だよ。
お前が懲罰に行った日からずっと、こいつはトイレで誰かに出くわすたびに
こうやって殴られている。
これからもずっと続く。
お前には嫌がらせでストレスを、こいつには苦しみと痛みを。
ちくったって無駄だ。全員で否定する。
お前らを除きすべての寮生がまとまった。
こいつが殴られるのはお前のせいだ。
お前の復讐が、俺らの復讐を生んだ。
ただお前を痛めるより、お前はこうして、こいつが苦しむ姿を見るんだ。
これからもずっとな。
これが俺らのやり方。
全部、お前のせいだ。」
そう言った。
「上田。なぜ言わなかった。」
上田直樹は息を整いて口を開けた。
「言ったらお前また、懲罰に行ってしまう。
憎しみは憎しみを生む。だろ?
お前には知られたくなかった。
俺が心配ない。このくらい。
夜中に、毎日腹筋してんだ。
痛くもかゆくもないよ。ずっと耐えられる。
俺は嬉しかった。ずっと一人だったのに、俺のために。
あの時に比べたら今の方がよっぽど楽だ。
俺は心配ないから、手だすなよ。」
「くそ。」
心でつぶやく・
「俺の、せいで。俺の復讐がお前にも向いてしまった。すまん。」
僕が、そう言った瞬間。
「どんっ」
腹に突き刺さる重たいこぶし。
息ができない。
腹を抱えて前かがみになる。
深い痛みが込み上げる。
深い怒りがねみりこむ。
「んん。。。」
痛みを、怒りを、歯を食いしばってこらえる。
その瞬間、残った半分の歯が折れた。
膨れ上がった歯茎が爆発し、血があふれだす。
「こいつはお前のせいでこの痛みと怒りをこれからずっとくらんだよ。」
僕は、その言葉が耳をかすめた瞬間人格を失った。
抱えきれない怒りが打ち上がった。
僕は、息ができなくて腹を抱え前しゃがみになった体を起こす。
ポケットからハンカチをだす。
そしてハンカチの隅を握った。
小さなものでも何かを握った拳は衝撃力が増す。
「そう。憎しみは憎しみを生む。永遠に。」
そう僕が言って、力一杯にハンカチを握った拳を
金沢の憎き顎を横殴りした。
脳が揺れて金沢はふらふらと。
さらに頭突きをして脳を揺らした。
ぶっとんだ金沢は、そのまま大便の便器に顔から倒れ込んだ。
僕は、その上から踏んだ。何度も何度も。
「あああああーーーーーーーーー」
発狂しながら。
人格を失った僕は、止まらない。
僕は、殺してしまってもいい。そう思ったかもしれない。
和式の便器にたまった水が少しずつ少しずつ赤く血にそまっていく。
何度も何度も踏み続ける。
鳴り響く警報。
駆け付ける刑務官。
僕をひっぱりだそうと、服をつかむ。
次から次へと刑務官が入ってくる。
僕は、すべて見えず、聞こえずただ踏み続ける。
そんな僕は、ついに、後頭部を警棒でどつかれて抑え込まれた。
そして意識を失った。