僕は悪にでもなる
そしてある日もちつき大会がが開かれた。
婦人会。
いつも静かな体育館が人に溢れ賑やかだった。
男しか見ていないのに目の前にはたくさんの生の女。
でもおばさんばかり。
楽しそうに、優しそうにせっせと準備をしている。
体育館一杯にならべられたイスと机。
まるで何かのパーティーかのように。
院生達が
もちをうち、おばちゃん達が、手慣れた手つきで、優しい手つきであんこを詰めていく。
たくさんの持ちが並べられた。
院生達はイスに座らされて。
そしてもちを、口にいれる。
なんとも言えねえうまさ。邪念が飛んでいく。孤独が飛んでいく。
一口目に噛んだ時のこのもちの感触、脳が支配されれる。
ただただ幸せに。
その時わずかに前歯に、くっついたあんこがやがて舌に付着する。
大量の唾液が拭きあふれ、あんこを向える。
甘い。
邪念がとけていく。
孤独がとけていく。
脳が支配されている。
薬中が薬をしばらく切らせ、今ここで薬を手に入れ、その苦しみを解放しているかのように僕は、ただただ嬉しそうに哀しそうに必死で全身で味わっていた。
すると横に座っていたおばちゃんが声をかけてきた。
「おいしい?」
「はい。」
きれいな人だった。
とめどなく優しい声と目。
孤独に押しつぶされそうに縮んだ僕を包む。
でもどこか悲しそうな人に見える。
「おばちゃん。なんか哀しそうですね。」
「そう?あなたほどでは、ないと思うよ」
「そうですか。そりゃそうですよ。ここに居るんですから。」
「そうね。ほら、まだあるわよ」
この人を何に例えよう。
何かを感じる。
裏も表もなく僕を見ている。
僕は、
はっきりとどうしてか、わかった。
世間の目や、暇つぶし。
または、不幸な少年を見て苦労して、育てている子と比較し、
わざわざここまで来て、2人を天秤にかけて、安心している。
安心の材料に僕たちがいる。
または、本当に力になりたいと妙な同情心とともにここに来ている。
どれも違う。
裏も表もない思いやり、僕だけを見ていてくれているるような。
会話はほとんどまだしていない。
質問も妙に数多くかけられない
沈黙が多い。
ただ僕を見守るように。ここに居る。
僕を見るときは、とめどなく優しい瞳。
だけど沈黙にはいるとおばちゃんは遠くを見る。
その目はどこまでも哀しい目。
今にも泣きそうな顔をする。
「おばちゃん、なんでこんなことしてんの」
「ボランティアよ。」
また優しい目にすり替わり柔らかいほほ笑みを見せる。
しかし、僕は、何故か嘘だとはっきりとわかった。
「どこから来たの?」
「東京よ」
「東京?どうしてそんな場所から?」
「だからボランティアよ」
おばちゃんは少し笑い話し返す。
「そうですか」
「東京は来たことある?」
「はい、一度住んでました。いい思い出はありませんが。」
「そう。東京にはね、汚れた街並みの隅にとてもきれいな桜が咲く公園があるの。
まるで幻想化のように桜に包まれる。春になると毎日そこに行ってるわ。
家が近いからね。見せてあげたいな。あの桜」
初めて、僕の質問を返すのではなく自らで言葉を走らせた。
僕は、桜にはまったく興味なかったが。
「そうですか。」
適当に返した。
「あなた、ここでの生活うまくいってないの?」
「まあ。ここでの生活というか、いつもうまくいっていないですね。
もう自分を諦めてますから。。。」
「そう。」
何も動じない。
しばらく沈黙が続いた、
「あなた弱虫ね。
自分だけが不幸だと思っている。
私はこうしていろんな少年院にボランティアで回っているけど
みんな同じよ。」
哀しそうにいった。
「ですかね。そうは思えませんが。」
「あのね。みんな
弱くなったり、強くなったりするのよ。
社会で生きている人も同じ。
でもそれはやがて心の財産になるの。
人の人生はただの暇つぶしよ。
肉体が滅びたら灰になるだけ
それまでの暇つぶしをそうやって、苦しんで生きていくのと、
誰かを愛して、愛されて生きていくのと、どっちがいい?」
優しく尋ねていた。
「そりゃあ僕だって愛が欲しい。求めてもいる。でも結局邪魔になって捨ててしまうんです。捨てれば次は悲しみと孤独。」
「愛を求めるってことは、愛するってのは、覚悟がいるの
みんな同じよ。
みんな愛を求めることで、何度も何度も愛に裏切られて
苦しみや孤独感に押しつぶされそうになってるの。
ここにいるからじゃないわ。あなただけじゃないわ。
みんな同じ。
人の世は汚れ冷酷な風が吹く。社会だって同じよ。
それでもみんな人を愛していくの。
戸惑いをつねに抱いて
痩せこけたほほのままでも、どんな、迷路の中でも
人は手探りで探しているの。
愛に裏切られる。愛から生まれる苦しみや孤独が、
怖いからそれをねじ伏せて、前をむいて歩いて行くの。
あなたも負けずに、人を愛していかなくてならないのよ。
心が死んで、廃人のまま生きていくのは自由だけど
人は結局、人生は暇つぶしで後は、灰になるだけ
それなのに愛なき廃人のまま過ごすのは、あまりにももったいない」
強く強く訴えてきた。
「この辛さを、力や肉に変えて生きていきなさい。
そしていつかここをでてあなたも人を愛するのよ。
きれいな空を眺めて乗り越えていくのよ。
青空を見るために雲をきり、雨を打ち、風をきりさき。
最後に決断するのはあなた自身。
誰のせいでもない。
もう人のせいにしたり、社会や運命のせいにするのはやめなさい。
そして自分のせいにするのもやめなさい。
あなたがあなたを、信じてあげなきゃ誰があなたの心を撫でてあげるのよ。
待っていないで自分で撫でてあげなさい。」
図星を疲れたようで、心がおいおいと泣く。
「悪を断ち切り、愛をつなぐ」
「院長と知り合いですか?」
「そうよ。あなたの話を聞いたのよ。
彼は待っているずっと待っている。君が変わることを期待しているわ。今も。」
院長の言葉が、強く厳しくはっきりと頭をめぐる。
「自分を許してあげなさい。」
「わからない。。。」
僕は、そう答えた。
直樹の言葉、強く厳しくはっきりと頭をめぐる。
「頼むよ。もうやめてくれ。お前には本当に感謝している。
自分を許してやってくれよ。心配でしょうがないんだ。」
そんなやりとりをしていると、この優しく温かい時間の終わりの鐘が鳴った。
「大丈夫。あなたなら。
いつか、ここを出たら。何でも相談乗るわ。これ本当はやったらだめだけど。
電話番号。」
そうおばちゃんが僕に、メモを渡す。
「期待しているは。あなたなら大丈夫。きっと大丈夫。
今日はありがとう。」
そう言って、去って行った。
院生達は、また働きアリのように並んで寮に帰り、
翌朝からまた厳しい毎日が始まった。
あのおばちゃんの言葉が離れない毎日。
院長の言葉が離れない毎日
直樹の言葉が離れない毎日
くっそ。どうすりゃいいだよ。戸惑う日々。
くそ。言ってくれるよ。何も知らない癖に。
誰がみんなとおなじだ。
俺は人とは違う。
でもただ弱いだけなのか。。。
~弱くなったり、強くなったりするのよ。
社会で生きている人も同じ~
~愛を求めるってことは、愛するってのは、覚悟がいるの~
~みんな愛を求めることで何度も何度も愛に裏切られて
苦しみや孤独感に押しつぶされそうになってる~
~それでもみんな人を愛していく~
~戸惑いをつねに抱いて人は手探りで探している~
~怖いからそれをねじ伏せて前をむいて歩いて~
~あなたを信じてあげなきゃ誰があなたの心を撫でてあげるの~
~悪を断ち切り愛をつなぐ~
くっそ!
頭から離れない。どこかまた飽きずと自分の強さを求め、
弱さを悔いあらためている。
そんな日々が長く続き、直樹がここを出る日がやってきた。
婦人会。
いつも静かな体育館が人に溢れ賑やかだった。
男しか見ていないのに目の前にはたくさんの生の女。
でもおばさんばかり。
楽しそうに、優しそうにせっせと準備をしている。
体育館一杯にならべられたイスと机。
まるで何かのパーティーかのように。
院生達が
もちをうち、おばちゃん達が、手慣れた手つきで、優しい手つきであんこを詰めていく。
たくさんの持ちが並べられた。
院生達はイスに座らされて。
そしてもちを、口にいれる。
なんとも言えねえうまさ。邪念が飛んでいく。孤独が飛んでいく。
一口目に噛んだ時のこのもちの感触、脳が支配されれる。
ただただ幸せに。
その時わずかに前歯に、くっついたあんこがやがて舌に付着する。
大量の唾液が拭きあふれ、あんこを向える。
甘い。
邪念がとけていく。
孤独がとけていく。
脳が支配されている。
薬中が薬をしばらく切らせ、今ここで薬を手に入れ、その苦しみを解放しているかのように僕は、ただただ嬉しそうに哀しそうに必死で全身で味わっていた。
すると横に座っていたおばちゃんが声をかけてきた。
「おいしい?」
「はい。」
きれいな人だった。
とめどなく優しい声と目。
孤独に押しつぶされそうに縮んだ僕を包む。
でもどこか悲しそうな人に見える。
「おばちゃん。なんか哀しそうですね。」
「そう?あなたほどでは、ないと思うよ」
「そうですか。そりゃそうですよ。ここに居るんですから。」
「そうね。ほら、まだあるわよ」
この人を何に例えよう。
何かを感じる。
裏も表もなく僕を見ている。
僕は、
はっきりとどうしてか、わかった。
世間の目や、暇つぶし。
または、不幸な少年を見て苦労して、育てている子と比較し、
わざわざここまで来て、2人を天秤にかけて、安心している。
安心の材料に僕たちがいる。
または、本当に力になりたいと妙な同情心とともにここに来ている。
どれも違う。
裏も表もない思いやり、僕だけを見ていてくれているるような。
会話はほとんどまだしていない。
質問も妙に数多くかけられない
沈黙が多い。
ただ僕を見守るように。ここに居る。
僕を見るときは、とめどなく優しい瞳。
だけど沈黙にはいるとおばちゃんは遠くを見る。
その目はどこまでも哀しい目。
今にも泣きそうな顔をする。
「おばちゃん、なんでこんなことしてんの」
「ボランティアよ。」
また優しい目にすり替わり柔らかいほほ笑みを見せる。
しかし、僕は、何故か嘘だとはっきりとわかった。
「どこから来たの?」
「東京よ」
「東京?どうしてそんな場所から?」
「だからボランティアよ」
おばちゃんは少し笑い話し返す。
「そうですか」
「東京は来たことある?」
「はい、一度住んでました。いい思い出はありませんが。」
「そう。東京にはね、汚れた街並みの隅にとてもきれいな桜が咲く公園があるの。
まるで幻想化のように桜に包まれる。春になると毎日そこに行ってるわ。
家が近いからね。見せてあげたいな。あの桜」
初めて、僕の質問を返すのではなく自らで言葉を走らせた。
僕は、桜にはまったく興味なかったが。
「そうですか。」
適当に返した。
「あなた、ここでの生活うまくいってないの?」
「まあ。ここでの生活というか、いつもうまくいっていないですね。
もう自分を諦めてますから。。。」
「そう。」
何も動じない。
しばらく沈黙が続いた、
「あなた弱虫ね。
自分だけが不幸だと思っている。
私はこうしていろんな少年院にボランティアで回っているけど
みんな同じよ。」
哀しそうにいった。
「ですかね。そうは思えませんが。」
「あのね。みんな
弱くなったり、強くなったりするのよ。
社会で生きている人も同じ。
でもそれはやがて心の財産になるの。
人の人生はただの暇つぶしよ。
肉体が滅びたら灰になるだけ
それまでの暇つぶしをそうやって、苦しんで生きていくのと、
誰かを愛して、愛されて生きていくのと、どっちがいい?」
優しく尋ねていた。
「そりゃあ僕だって愛が欲しい。求めてもいる。でも結局邪魔になって捨ててしまうんです。捨てれば次は悲しみと孤独。」
「愛を求めるってことは、愛するってのは、覚悟がいるの
みんな同じよ。
みんな愛を求めることで、何度も何度も愛に裏切られて
苦しみや孤独感に押しつぶされそうになってるの。
ここにいるからじゃないわ。あなただけじゃないわ。
みんな同じ。
人の世は汚れ冷酷な風が吹く。社会だって同じよ。
それでもみんな人を愛していくの。
戸惑いをつねに抱いて
痩せこけたほほのままでも、どんな、迷路の中でも
人は手探りで探しているの。
愛に裏切られる。愛から生まれる苦しみや孤独が、
怖いからそれをねじ伏せて、前をむいて歩いて行くの。
あなたも負けずに、人を愛していかなくてならないのよ。
心が死んで、廃人のまま生きていくのは自由だけど
人は結局、人生は暇つぶしで後は、灰になるだけ
それなのに愛なき廃人のまま過ごすのは、あまりにももったいない」
強く強く訴えてきた。
「この辛さを、力や肉に変えて生きていきなさい。
そしていつかここをでてあなたも人を愛するのよ。
きれいな空を眺めて乗り越えていくのよ。
青空を見るために雲をきり、雨を打ち、風をきりさき。
最後に決断するのはあなた自身。
誰のせいでもない。
もう人のせいにしたり、社会や運命のせいにするのはやめなさい。
そして自分のせいにするのもやめなさい。
あなたがあなたを、信じてあげなきゃ誰があなたの心を撫でてあげるのよ。
待っていないで自分で撫でてあげなさい。」
図星を疲れたようで、心がおいおいと泣く。
「悪を断ち切り、愛をつなぐ」
「院長と知り合いですか?」
「そうよ。あなたの話を聞いたのよ。
彼は待っているずっと待っている。君が変わることを期待しているわ。今も。」
院長の言葉が、強く厳しくはっきりと頭をめぐる。
「自分を許してあげなさい。」
「わからない。。。」
僕は、そう答えた。
直樹の言葉、強く厳しくはっきりと頭をめぐる。
「頼むよ。もうやめてくれ。お前には本当に感謝している。
自分を許してやってくれよ。心配でしょうがないんだ。」
そんなやりとりをしていると、この優しく温かい時間の終わりの鐘が鳴った。
「大丈夫。あなたなら。
いつか、ここを出たら。何でも相談乗るわ。これ本当はやったらだめだけど。
電話番号。」
そうおばちゃんが僕に、メモを渡す。
「期待しているは。あなたなら大丈夫。きっと大丈夫。
今日はありがとう。」
そう言って、去って行った。
院生達は、また働きアリのように並んで寮に帰り、
翌朝からまた厳しい毎日が始まった。
あのおばちゃんの言葉が離れない毎日。
院長の言葉が離れない毎日
直樹の言葉が離れない毎日
くっそ。どうすりゃいいだよ。戸惑う日々。
くそ。言ってくれるよ。何も知らない癖に。
誰がみんなとおなじだ。
俺は人とは違う。
でもただ弱いだけなのか。。。
~弱くなったり、強くなったりするのよ。
社会で生きている人も同じ~
~愛を求めるってことは、愛するってのは、覚悟がいるの~
~みんな愛を求めることで何度も何度も愛に裏切られて
苦しみや孤独感に押しつぶされそうになってる~
~それでもみんな人を愛していく~
~戸惑いをつねに抱いて人は手探りで探している~
~怖いからそれをねじ伏せて前をむいて歩いて~
~あなたを信じてあげなきゃ誰があなたの心を撫でてあげるの~
~悪を断ち切り愛をつなぐ~
くっそ!
頭から離れない。どこかまた飽きずと自分の強さを求め、
弱さを悔いあらためている。
そんな日々が長く続き、直樹がここを出る日がやってきた。