僕は悪にでもなる
ここに直樹がいる。
確かに今から会う。
どんな顔をして会えばいいのか。
閉鎖された世界の中でしか、かかわったことのない直樹と
そこで生まれた絆を
この自由で広い世界で引き継いでいけるのか。
どうかかわっていけばいいのか。
不安と喜びが当たり会い鼓動が鳴る
どきどき、どきどき
ハチ公前に近ずいていく
たわむれる人々の中に足をひきずり、回りを見渡しうろうろしている直樹。
いた。
囚人服ではなくそれなりのおしゃれをしている
坊主でなく延びた髪をやんわりとセットをしていた。
とても違和感を感じた
坊主で囚人服。ぱっとしない顔立ちに、弱々しく細い体だった直樹。
それなりに、都会人にまじり、見たことのない直樹の姿。
そっと肩をたたいた。振り返った直樹はとても照れくさそうに声をかけた。
「久しぶり。こんな所で会えるとはな。」
僕もとても照れた。
ふっくらと少し太った直樹を見た。
「あー。本当にこんな日がくるとはな。
少し太ったな」
「そうなんだよ。」
「なんか幸せそうでほっとしたよ。」
「あー。ちょっと居酒屋でも行こうか」
「行こう」
積もる話は後にして、二人は早速店を探した。
照れくささや、ぎこちなさは何故か不思議なほどに溶けてなくなり、
僕らはすっかりと東京にのまれるように。
人々の流れにのまれていった。
まるでさっきまでに二人の間にあった照れくささ。
久しぶりに、この広い世界で再び会った不思議な感情が
一歩を踏みしめるたびに消えていく。
二人は店に入り、注文を済ませた。
少し沈黙が続く。
人々の流れからでて、二人だけの空間に入るとやっぱり漂う照れくささ。
頭によみがえる少年院での暮らし。
起きた事件。
直樹の言葉。
次々とよみがえってくるが言葉にできない。
きっと直樹も同じようなことを考えているのだろう。
二人にとって不思議なことに
よみがえるたくさんの濃い思い出は言葉にする必要がなかった。
少年院でいた頃は、きっとまたいつか外にでて会える日がくれば
ここでの生活が笑いにかわり、話がもりあがるだろう。
そんな日々がくればどれだけ楽しいだろう。
そう考えていた。
でも不思議だ。
もうすでに言葉にするほど、その思い出はどうでもよくなり
今の直樹、これからの二人に興味がむく。
「直樹、あれからどうしてた。今、幸せか?」
「あー。とても幸せだ。」
「そう。それは、良かったな。」
「聞いてくれ。幸一。」
「何?」
「少年院で講義をしてくれた人覚えているか?」
「あーあの人。」
「不思議なことに、俺の保護観察官は弁護士でよ。
その監察官が、あの人の顧問弁護士をしてたんだ!」
「えー。偶然だな。」
「そうだろ?すごいでしょ?俺がさ。その保護観察官に
講義を聞いて感動したことを伝えると、弁護士もびっくりしてね。
紹介してくれたんだ。」
「えー。それで会ったの?」
「会ったもなにも、今その人の店で働いている。」
「まじで」
「そうなんだよ。毎日が充実してる。」
「そうか。それはよかった。」
「仕事も楽しいけど、彼女もできたんだ。」
「ほんと、お前幸せそうだな。」
「今、本当に生きている。ちゃんと目標にむかって過ごせている。
「目標って?」
「彼女には、子供がいるんだ。空美って名前の」
「子もちか!」
「でもよ。心から空実を愛している。わが子のように。
彼女は雪美って言うんだけど。この二人をきっと幸せにしたい。
いつか自分の店をもってさ。ずっとずっと3人で暮らしていきたい。
後は何もいらないんだ」
「そうか。」
幸せそうに話す直樹。力づよく言葉をなげかける。
中でいた頃の直樹はもうおもかけすらない。
真っすぐに一寸の迷いもない一本道を見つけていた。」
「幸一はどう?」
「俺は、まだ。」
少し自信なく答えた。
「そうだよな。まだ東京に来たばかりだよな。これからだよな。」
「あー。でもよう。すごく今俺生きている。
東京の力を分けてもらっているような感じがする。
俺はここで生きていく。そう思っているんだ。」
「そうか。それはよかった。」
二人は過去の思い出はなく、未来の話で盛り上がり
至福の時間を過ごした。
「なあ。帰りに内によっていかないか?
雪美と、空美に会わせたいんだ。」
「あー。ぜひ会いたいな」
「じゃあでようか」
「うん」
そう言って二人は店をでて直樹の家にむかった。
家に着くと雪美と空実がそろって迎えてくれた。
これは直樹も決意するはず。
まるで、天使のような笑顔。
なんの矛盾もない美しさ。
でもどこか、溶けてなくなりそうな弱々しさも感じる。
空実は、何にも例えられない笑顔を見せる。
悪も、恨みもないまんまるに光る透き通った瞳。
その光る瞳に映った自分が情けなく、弱く感じる。
その自覚が決意に変わる。
俺もこの子に負けないように。この子の前でもはずかしくならないように
立派にここで生きていきたい。
堂々とこの子の前で立っていられるように生きていく。
確かに今から会う。
どんな顔をして会えばいいのか。
閉鎖された世界の中でしか、かかわったことのない直樹と
そこで生まれた絆を
この自由で広い世界で引き継いでいけるのか。
どうかかわっていけばいいのか。
不安と喜びが当たり会い鼓動が鳴る
どきどき、どきどき
ハチ公前に近ずいていく
たわむれる人々の中に足をひきずり、回りを見渡しうろうろしている直樹。
いた。
囚人服ではなくそれなりのおしゃれをしている
坊主でなく延びた髪をやんわりとセットをしていた。
とても違和感を感じた
坊主で囚人服。ぱっとしない顔立ちに、弱々しく細い体だった直樹。
それなりに、都会人にまじり、見たことのない直樹の姿。
そっと肩をたたいた。振り返った直樹はとても照れくさそうに声をかけた。
「久しぶり。こんな所で会えるとはな。」
僕もとても照れた。
ふっくらと少し太った直樹を見た。
「あー。本当にこんな日がくるとはな。
少し太ったな」
「そうなんだよ。」
「なんか幸せそうでほっとしたよ。」
「あー。ちょっと居酒屋でも行こうか」
「行こう」
積もる話は後にして、二人は早速店を探した。
照れくささや、ぎこちなさは何故か不思議なほどに溶けてなくなり、
僕らはすっかりと東京にのまれるように。
人々の流れにのまれていった。
まるでさっきまでに二人の間にあった照れくささ。
久しぶりに、この広い世界で再び会った不思議な感情が
一歩を踏みしめるたびに消えていく。
二人は店に入り、注文を済ませた。
少し沈黙が続く。
人々の流れからでて、二人だけの空間に入るとやっぱり漂う照れくささ。
頭によみがえる少年院での暮らし。
起きた事件。
直樹の言葉。
次々とよみがえってくるが言葉にできない。
きっと直樹も同じようなことを考えているのだろう。
二人にとって不思議なことに
よみがえるたくさんの濃い思い出は言葉にする必要がなかった。
少年院でいた頃は、きっとまたいつか外にでて会える日がくれば
ここでの生活が笑いにかわり、話がもりあがるだろう。
そんな日々がくればどれだけ楽しいだろう。
そう考えていた。
でも不思議だ。
もうすでに言葉にするほど、その思い出はどうでもよくなり
今の直樹、これからの二人に興味がむく。
「直樹、あれからどうしてた。今、幸せか?」
「あー。とても幸せだ。」
「そう。それは、良かったな。」
「聞いてくれ。幸一。」
「何?」
「少年院で講義をしてくれた人覚えているか?」
「あーあの人。」
「不思議なことに、俺の保護観察官は弁護士でよ。
その監察官が、あの人の顧問弁護士をしてたんだ!」
「えー。偶然だな。」
「そうだろ?すごいでしょ?俺がさ。その保護観察官に
講義を聞いて感動したことを伝えると、弁護士もびっくりしてね。
紹介してくれたんだ。」
「えー。それで会ったの?」
「会ったもなにも、今その人の店で働いている。」
「まじで」
「そうなんだよ。毎日が充実してる。」
「そうか。それはよかった。」
「仕事も楽しいけど、彼女もできたんだ。」
「ほんと、お前幸せそうだな。」
「今、本当に生きている。ちゃんと目標にむかって過ごせている。
「目標って?」
「彼女には、子供がいるんだ。空美って名前の」
「子もちか!」
「でもよ。心から空実を愛している。わが子のように。
彼女は雪美って言うんだけど。この二人をきっと幸せにしたい。
いつか自分の店をもってさ。ずっとずっと3人で暮らしていきたい。
後は何もいらないんだ」
「そうか。」
幸せそうに話す直樹。力づよく言葉をなげかける。
中でいた頃の直樹はもうおもかけすらない。
真っすぐに一寸の迷いもない一本道を見つけていた。」
「幸一はどう?」
「俺は、まだ。」
少し自信なく答えた。
「そうだよな。まだ東京に来たばかりだよな。これからだよな。」
「あー。でもよう。すごく今俺生きている。
東京の力を分けてもらっているような感じがする。
俺はここで生きていく。そう思っているんだ。」
「そうか。それはよかった。」
二人は過去の思い出はなく、未来の話で盛り上がり
至福の時間を過ごした。
「なあ。帰りに内によっていかないか?
雪美と、空美に会わせたいんだ。」
「あー。ぜひ会いたいな」
「じゃあでようか」
「うん」
そう言って二人は店をでて直樹の家にむかった。
家に着くと雪美と空実がそろって迎えてくれた。
これは直樹も決意するはず。
まるで、天使のような笑顔。
なんの矛盾もない美しさ。
でもどこか、溶けてなくなりそうな弱々しさも感じる。
空実は、何にも例えられない笑顔を見せる。
悪も、恨みもないまんまるに光る透き通った瞳。
その光る瞳に映った自分が情けなく、弱く感じる。
その自覚が決意に変わる。
俺もこの子に負けないように。この子の前でもはずかしくならないように
立派にここで生きていきたい。
堂々とこの子の前で立っていられるように生きていく。