僕は悪にでもなる
朝起きて仕事に向かった。
仕事を終えて今日は空美の元へむかった。

歩きながら心が願う。

襲撃。また来い。原因が知りたい。

でもこなかった。

空美のいるマンションの前に突っ立った。

あれだけのはずがない。
何のために、俺が襲われた。
この原因がわからなければ、俺はずっと恐怖から逃れられない。

「くそ。」

汚い息を吐ききり、頭をすっきりさせて空美の元へ向かう。

「幸一。どうしたの。その顔」
潤うしいまんまるな瞳が驚きを見せて声をかけてきた。

「大丈夫だよ。ちょっと仕事中に転んだだけだよ」

「気を付けなきゃだめだよ。」

小さな口をとがらせ、小さな口を膨らませた。
「うん。ありがとう!」

優しく小さな体で心配してくれた空美の体を抱きながら
二人でアニメを見た。

気がつけば俺の胸の中にいる小さな空実は、
眠っていた。

俺の胸の中でぐっすりと寝ている。

空美の顔を俺は長く見つめていた。

襲撃。

原因が知りたい。

何か大きな力が俺に向いているような気がする。
その大きな悪の力がいずれこの子にも及ぶようで
絶え間ない恐怖感を感じた。

次の日、目を覚ますとめずらしく直樹と雪美が起きていた。
いつも夜遅く帰ってきた二人は眠っている。
雪美が作ってくれた朝ごはんを食べて眠る3人の顔をみて仕事に行っていた。

しかし、今日は俺の顔を見て心配そうに二人は起きていた。

「どうしたんだよ。その顔」
「あーちょっと喧嘩しちまった。」
「どこで?」
「渋谷で酔っ払いにからまれたんだ」
「気をつけろよ。びっくりしたじゃないか」
「ごめん。もうしないから」
「けが。大丈夫?」
雪美も訪ねてきた。

「大丈夫。心配してくれてありがとう」
そう言って僕は仕事にでかけた。

そして仕事を終え、空美の元へ。

何もない。
誰もこない。
でもどうしても気にかかる。
あれで終わるとは思えない。

今日も空美と優しい時間を過ごして眠りに着く。
そしてまた仕事へ向かう。

今日は、雪美の休みの日。

俺はどうしても気にかかり、あの襲撃の場所へむかった。

浮かびあがる黒い影。
複数の男達に囲まれた。

なぜ。ここだけに。
この場所だけこいつらがいるんだ。

「なぜ、この場所で俺を襲う?」

誰も返事をしない。

「なぜだーーー!」

叫ぶ俺。

拳が飛び、膝が飛び、意識が飛んだ。

しばらく気を失っていた。
やつらはもういない。
どうすれば真相がわかるのか。
痛みなど感じなかった。
弱った体を起こし、かずみさんの店に入る。

「またやられたの!?」
「まあ。」
「どうして。」
「わからない。でもわかったことが一つある。
あの場所でしか襲われない。」
「警察呼ぶわ」
「いいですよ。呼んでも何も変わらない。」
「じゃあもうここにこないで。いつまでもこんな姿見たくないわ。
ここに来なければ襲われないんでしょ」

「そうです。でも僕は着つづけます。」
「どうして?復讐したいの?」
「まさか。復讐なんかしたって何もいいことない。
復讐心は自分を腐らせる。
なぜ俺を襲うのか聞きたいだけなんです。

俺は決してやつらを憎まない。もう二度と人を憎まない。
復讐もしない。ただ、真相が知りたいだけ。
何かの悪が俺に向いている。
恨まずに解決したい。
何だってする。」

かずみさんがふと我に返り、妙な表情を浮かばせた。
「復讐心は自分を腐らせる。」
そう言った瞬間に。

「でもこのままじゃ、体がもたないわ。お願いだからやめて。
真相は警察にまかせましょう。」

そう言って何も変わりやしないのに警察を呼んだ。

事実確認だけする警察。

俺は何も言わず、途中でその場から立ち去った。
「幸一!」

かすかに聞こえるかずみさんの声を背に家路をたどる。

途中で直樹に電話をかけた。

「もしもし。」
「直樹、悪いが仕事が忙しくてしばらく空美の面倒見れないわ。」
「あーそうか。わかった。大丈夫か?」
「何が?」
「なんか元気ないよ?」
「ちょっと疲れているだけだよ。」
「そうか。無理するなよ」
「ありがとう。でも空美誰か見てくれる人いるのか?」
「あー。雪美の妹に頼んでみようと思う。」
「そうか。すまんな」

そう言って電話をきった。

愛から離れて過ごす日々。
俺に悪が向いている。
どうにかしてケリをつけないとまた憎しみに飲まれてしまう。

それから僕は何度も何度もあの場所へ行き、襲撃を受ける。
何度も何度もわけを聞くが何も答えない。
腐りそうになった時、愛に飢え、空美のもとへ知らないうちに向かっていた。

アパートに着き、部屋にむかって歩いていると
向かいから一人の女性が近づいてきた。
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