僕は悪にでもなる
女の子
生まれたら。
桜
男の子
生まれたら
幸一
体がとまった。
「私は桜」
そう妹がつぶやく。
「ここは、かずみさんに連れられた公園。」
「かずみさんは、友人から母のことを聞いたのよ(母の言葉)そしてあんたをここに連れてきてあげたかったのよ」
思い出した。クリスマス会のかずみさんの言葉。「一度東京に遊びにきな。幻想のかのようにきれいな桜のさく公園があるの。幸一君といってみたいな。」
かずみさんのはからいは心に響く。
「でもなんで、かずみさんは東京に?」
「大井を殺すためよ。」
また思い出した。俺が東京に行くことを決めてかずみさんに連絡した時。
取り乱すかずみさん。
「東京は住むとこじゃない。遊びにくるとこよ」・・・
「でもね。かずみさんは、耐えがたい暴行を受けているときにあなたが言った「復讐心は自分を腐らせる。」その言葉と、暴行に耐え続けるあなたの姿を見て心打たれ、復讐するのをやめたのよ。」
東京で過ごしたかずみさんとの日々をひしひしと思いだす。
俺は、俺は、かずみさんを刺してしまった。。。
殺してしまった。もう2度とあえない。。。
涙が込み上げてくる。空美に見られないように左手で右腕の袖をひっぱり、
服を噛んで息を殺す。
「うー。んー、うんー。」
「直樹君。なぜ○○を刺したか知っている?」
「大井は雪美の抱えた借金をかてに雪美をもてあそび、そして死にまで追い込んだ。」
「そう。でもそんな事実直樹君は知らないと思うわ。それにそれだけの理由でもないと思う。」
「じゃあなぜ。」
「雪美さんを失った直樹君は、きっと虹美さんを殺した犯人が大井と知った時、暴行を受け続けた犯人も、雪美さんの死にも関係があると思ったはず。でもそれだけではなく、
少年院でも、娑婆でも悪と戦って、負けても立ちあがり
苦しみ続けるあなたをずっと心配していたの。
虹美さんを殺した犯人が大井だと弁護士から聞かされて
あなたが復讐する前に、あなたのかわりにやったのよ。
雪美さんの死に関係したことへの恨みだけでやったのではないと思うわ。
あなたが悪を断ち切り善をつなぐ。その言葉を貫いてほしかったのよ。
悪に飲み込まれてしまわぬよう、あなたをかばって、空美ちゃんをあなたに託したと
私は思うの。」
「俺は、俺は、あいつのために何もできなかったのに。
あのときあいつを殺していれば、雪美も、虹美も、そしてかずみさんも
死んでいない。俺は一体どれほどのことをしてしまったのか」
もう声を殺すことができず、感情が爆発した。
「でも、それも愛。憎しみでなく愛で返すしかないの。失ったものはもう戻らない。
あんたができることは何?」
声をもらして泣く俺に気付き空美があわてて俺の方にむかって歩いてきた。
「どうしたの?」
下から空美が顔をくしゃめて眺めている。
俺は抱きかかえ、ただただ頭をなでた。声を殺し、憎しみ、悔しさを空美に伝えぬよう
こいつをこいつを守ることが償い。
悪を断ち切り愛をつなぐ。
爆発した感情を愛にかえて。
呼吸が落ち着いた。
妹は少し目に涙を浮かべながらも微笑み俺を見ている。
「こいつを、守ること。あいつが帰ってくるまで」
そう俺が言った。
「そうよ、ここの桜ももう咲き始める。これからなのよ。
私はいつも誰かに幸せという種をもらっても
私欲にかえてやろうと溜め込んだ。
やがてその種は腐りはて使い物にならなくなった、
でもその種を土にうめ水をやり花をさかせると、
やがてその花は種を残しまた花が咲く。
そして、私は誰かに幸せという種をあげた。
その誰かが謙虚に土にうめ花を咲かせる。
その花に勇気付けられた私は水をあげる。
その花はやがて花畑となりまた種が誰かに渡る。
悪を断ち切り、愛をつなぐ。
この空の下で流れる人生は、こんなに厳しい、それなのに人はこんなにももろい。
それでもその上に立ち、
笑って生きていける強さを一緒に力を合わせて、あの子たちに与えるの。
愛をつないでいく強さを伝えるの。
約束ね。」
この季節に珍しく粉雪がまった。空を見上げると通り過ぎていく雲。
知らぬ知らぬ間に雲が割れては薄れ、消えていく。
その後にうっすらと虹が浮かびあがり、透き通った遠い遠い青い空。
今、この瞬間、小鳥がさえずり、新しい日の始まった。
そのころ裁判所で直樹の判決がきまった。
「どん」
上田直樹 無期懲役刑と処する。
お前が帰ってくるまで、こいつを預かる。
きっときっとお前は帰ってくる。
雪美も、虹美も、空美も、かずみさんも
みんなで待っている。
なあ。直樹。
空を見上げて吠えた。
生まれたら。
桜
男の子
生まれたら
幸一
体がとまった。
「私は桜」
そう妹がつぶやく。
「ここは、かずみさんに連れられた公園。」
「かずみさんは、友人から母のことを聞いたのよ(母の言葉)そしてあんたをここに連れてきてあげたかったのよ」
思い出した。クリスマス会のかずみさんの言葉。「一度東京に遊びにきな。幻想のかのようにきれいな桜のさく公園があるの。幸一君といってみたいな。」
かずみさんのはからいは心に響く。
「でもなんで、かずみさんは東京に?」
「大井を殺すためよ。」
また思い出した。俺が東京に行くことを決めてかずみさんに連絡した時。
取り乱すかずみさん。
「東京は住むとこじゃない。遊びにくるとこよ」・・・
「でもね。かずみさんは、耐えがたい暴行を受けているときにあなたが言った「復讐心は自分を腐らせる。」その言葉と、暴行に耐え続けるあなたの姿を見て心打たれ、復讐するのをやめたのよ。」
東京で過ごしたかずみさんとの日々をひしひしと思いだす。
俺は、俺は、かずみさんを刺してしまった。。。
殺してしまった。もう2度とあえない。。。
涙が込み上げてくる。空美に見られないように左手で右腕の袖をひっぱり、
服を噛んで息を殺す。
「うー。んー、うんー。」
「直樹君。なぜ○○を刺したか知っている?」
「大井は雪美の抱えた借金をかてに雪美をもてあそび、そして死にまで追い込んだ。」
「そう。でもそんな事実直樹君は知らないと思うわ。それにそれだけの理由でもないと思う。」
「じゃあなぜ。」
「雪美さんを失った直樹君は、きっと虹美さんを殺した犯人が大井と知った時、暴行を受け続けた犯人も、雪美さんの死にも関係があると思ったはず。でもそれだけではなく、
少年院でも、娑婆でも悪と戦って、負けても立ちあがり
苦しみ続けるあなたをずっと心配していたの。
虹美さんを殺した犯人が大井だと弁護士から聞かされて
あなたが復讐する前に、あなたのかわりにやったのよ。
雪美さんの死に関係したことへの恨みだけでやったのではないと思うわ。
あなたが悪を断ち切り善をつなぐ。その言葉を貫いてほしかったのよ。
悪に飲み込まれてしまわぬよう、あなたをかばって、空美ちゃんをあなたに託したと
私は思うの。」
「俺は、俺は、あいつのために何もできなかったのに。
あのときあいつを殺していれば、雪美も、虹美も、そしてかずみさんも
死んでいない。俺は一体どれほどのことをしてしまったのか」
もう声を殺すことができず、感情が爆発した。
「でも、それも愛。憎しみでなく愛で返すしかないの。失ったものはもう戻らない。
あんたができることは何?」
声をもらして泣く俺に気付き空美があわてて俺の方にむかって歩いてきた。
「どうしたの?」
下から空美が顔をくしゃめて眺めている。
俺は抱きかかえ、ただただ頭をなでた。声を殺し、憎しみ、悔しさを空美に伝えぬよう
こいつをこいつを守ることが償い。
悪を断ち切り愛をつなぐ。
爆発した感情を愛にかえて。
呼吸が落ち着いた。
妹は少し目に涙を浮かべながらも微笑み俺を見ている。
「こいつを、守ること。あいつが帰ってくるまで」
そう俺が言った。
「そうよ、ここの桜ももう咲き始める。これからなのよ。
私はいつも誰かに幸せという種をもらっても
私欲にかえてやろうと溜め込んだ。
やがてその種は腐りはて使い物にならなくなった、
でもその種を土にうめ水をやり花をさかせると、
やがてその花は種を残しまた花が咲く。
そして、私は誰かに幸せという種をあげた。
その誰かが謙虚に土にうめ花を咲かせる。
その花に勇気付けられた私は水をあげる。
その花はやがて花畑となりまた種が誰かに渡る。
悪を断ち切り、愛をつなぐ。
この空の下で流れる人生は、こんなに厳しい、それなのに人はこんなにももろい。
それでもその上に立ち、
笑って生きていける強さを一緒に力を合わせて、あの子たちに与えるの。
愛をつないでいく強さを伝えるの。
約束ね。」
この季節に珍しく粉雪がまった。空を見上げると通り過ぎていく雲。
知らぬ知らぬ間に雲が割れては薄れ、消えていく。
その後にうっすらと虹が浮かびあがり、透き通った遠い遠い青い空。
今、この瞬間、小鳥がさえずり、新しい日の始まった。
そのころ裁判所で直樹の判決がきまった。
「どん」
上田直樹 無期懲役刑と処する。
お前が帰ってくるまで、こいつを預かる。
きっときっとお前は帰ってくる。
雪美も、虹美も、空美も、かずみさんも
みんなで待っている。
なあ。直樹。
空を見上げて吠えた。