僕は悪にでもなる
「幸せという種を植えて愛情と言う水をやりいつか花を咲かせる。
その花はまた誰かの勇気となりまた愛情と言う水をもらいさらに花は育つ。
やがて花は種を残し誰かに渡る。
そんなことを夢みてたんだ。

でもよ。俺の人生はまるで間逆だ。お前らのような残虐な悪に出くわし、
俺はその悪から育った復讐心でお前らの悪を育てた。
そしてどこまでもお前らは俺から奪った。
でも、もう何もない。
愛の種も残せなかったけど悪の種も残したくない。
ここでお前をきれば、その子に悪の種を渡してしまう。
だからお前をきらない。」

そう言って俺は
トレーニング用におかれたベンチプレスを持ち上げて、
ゆっくりと窓に向かって歩いた。
そして下を見下ろして誰もいないと確認し窓をたたき割った。
窓辺にのぼり、高い高い場所から見える街並み。
たくさんの人がこの下で生きているんだな。
次生まれ変わったらもうこんな一族に会いたくないな。
そして一面に広がる雲一つない透き通った青い空。

空美。

許してくれ。俺のような人生を歩まないように。
俺の人生はないもいいことがなかった。
苦しみ悲しみ恨み。
神様。もし神様がこの空のどこかにいるのならば
俺は、この荒くれた厳しい命にかかった
この道を耐え忍び 歩いて来たからその代わりに一つだけ
お願いをさせてください。
空美に、どんな悪にも負けない愛を与えてください。

空に向かって願った。

するとかすかに見えた虹。

虹美今からいくよ。

後ろではまだ小さな命が震えて泣いている。

直樹。ごめん。俺は切れない。
お前も空美のやけど跡を見るたびにまた恨みにのまれて生きていかなければならないんだな。復讐心を抱き、また悪と戦っていなければならない。
直樹は想像を絶する過酷で悲しい人生がまだ続く。

「ごめんな。怖い思いをさせてしまった。」
俺は震える子供の目をしっかりと見て伝えた。

そしてまた空を見ながら大井に告げる。

「さあ。俺はここで命を絶つ。その子を連れて部屋を出てくれ。」

すると窓辺に立つ俺の方へ大井の息子が近づいてくるのがわかった。
俺は振り向いた。

「やめろ。俺は自分で死ぬ。
まだわからねえのか。俺のこの深い殺意を超えるものが。
お前のまえであの子を斬れない。」

この場におよんで大井の息子は俺を突き落とそうとしている。
絶えない悪。
奥に見えるのはこんな悪から生まれた子だけど
けがれのない小さな命。
「やめろ。この子の前で。いい加減にしろよ。」

そう言った。

一度足を止め、俺を睨みつけている。
俺も大井の息子をじっと見つめた。

「どんなに俺の人生が悲くても
今、憎しみにまみれた命の果てでも
俺は後に何も残したくない。もうこれ以上後に残したくない。」

でも大井の息子の悪は絶えない。止めた足を動かして一気に俺の方へ向かって走ってきた。

何にも例えようのない涙が。虚しさが。

俺はグッと足元に力を入れ、指先で固め、重心を前に。

腰を入れて剣をあげて構えた。
大井の息子は止まらない。

「ばさっ!!」

頭がボールのように転がっていった。
小さな震える命の前に。
無言の子供の瞳が固まった。

「くそっ。。。。」

この命、最後の最後まで絶望を見せてくれる。

斬ってしまった。子供の目の前で。やってしまった。

「あーーーーーー」

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ

命の果てに感じる切り裂かれるような胸の痛み。

「すまん。」

固まる少女にこれ以上の言葉はかけられない。
無言の子供の瞳に涙があふれ、俺を見ている。

何処からか鳴る鐘が命の果てを伝えてくる。

俺はそのまま力を入れた足元を緩め、重心を後ろに。
身をまかせて、窓から身を放り投げた。背から空に飛んだ。

許してくれ。
残してしまった。
俺のこの重たい悪を少女に食わしてしまった。

最後に見せた善意さえも悪魔にもっていかちまった。
ひと光りも残さず闇に消えた。

一体俺の人生はなんだったんだろう。
俺の命題は最後までわからず、最後まで無念のままに。

直樹。

やっぱり俺、生まれ変わったとしても、もう。。。

バンッ!!

何処からか鳴る鐘が命の終末を告げた。

手紙を握り締め涙する直樹。
偶然同じ務所に居た大井の弟を時間をかけて研ぎ澄ませた鉄の矢で
刺しまくり血まみれになって空に向かって吠える父。
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