掠れた声で囁いて
「次で相模さんは、降りますよね……」
テレビの表示には、いつも相模さんが乗り込んでくる駅の表示があった。
「いや、降りないよ」
「え?」
横を向くと相模さんの顔がとても近くにあった。ほんの数センチ顔を寄せればキスできる位置。
私の頬は一瞬で朱に染まるが、相模さんは至って平常。
こういう差を目の当たりにすると少し悲しくなる。
「心配だから送るよ」
「え!?」
「この先に寄りたい場所があるからついで」
悲しみなんて一瞬でふっとんだ。
聞き間違えたと思って、相模さんを凝視する。その視線を非難だと相模さんは受け取ったようだった。
「知らないおっさんと一緒なんてイヤだよな……」
そりゃそうか、と眉を下げて笑う相模さんに頭をぶんぶん横に降って滅相もない、ってことを全力で伝える。
「いや、悪いと思っただけです!嫌だとか全く考えてませんでした!」
「そうなの?」
「はい!!」
こんな力こめて返事してたら、私の気持ちなんて簡単にバレてしまいそうなものだけど、相模さんはホッとしているように見えた。
そこから、他愛もない話をした。相模さんの声は、本当に不思議なもので聞けば聞くほどずっと聞いていたくなる。
停車して自分の家の最寄り駅に近付くたび、動悸が早くなる。
シンデレラは魔法が溶ける時こんな気持ちでいたのだろうか。大好きな人といられるのは、あと数分。それが過ぎたら魔法は溶ける。それってかなり辛い。だって、本当は一緒にいようと願えばいられるのだから。