掠れた声で囁いて
「啓はほんとどこででも寝てるな」
「寝る子は育ちますよ」
電車の中でもけーくんはぐっすり寝ていて、たまに目を開けては欠伸をしてまた眠る。
全くと言っていいほど手のかからない赤ちゃんだ。寧ろ赤ちゃんらしくもない。
「そんなすぐにデカくなられても困るんだけどなぁ」
相模さんは苦笑気味で答える。
親としてはもうちょっとゆっくり育って欲しいということなのだろうか。
けーくんはそんな相模さんの気持ちには気付かないまま眠り続ける。
「……この子の前世はナマケモノだったんじゃないかと思ってるよ」
ナマケモノ、に吹き出す。
言われるとそう思えてきてしまうから不思議だ。
私の笑いが止まった頃、相模さんが相談なんだけど、と神妙な顔をして言った。
「相談……ですか?」
「そう」
相模さんはけーくんを一度撫でると、電車の中でだけこの子を抱っこしていて欲しいんだと告げた。
「けーくんを?」
「無茶なことを言ってるのは承知してるよ」
断ってもいいから、と相模さんは言った。
「え、でも、私が立てばいいだけじゃ」
「絢菜ちゃんは座っていた方がいいよ」
言葉の真意が分からなくて首を傾げる。