私の命を、貴方に
部屋にいたのは下心しかない男でも、酒臭い男でもない、青年であった。
ソファに寝かされている。
「え・・」
シエラはうろたえた。青年はあちこち傷だらけ、頭から血もでている。
「姉さんが言ってたのって・・」
シエラがこの部屋へ行く直前、一番年が近い姉が、
「今回は大丈夫そうよ。」
とシエラに言って、救急セットを手渡したのであった。一体何が大丈夫なのか。いきなりシエラを襲うことは無いだろう、ということなのか。

(眠っているようだし・・触っても大丈夫かしら・・)
そう思いながらシエラは青年に近寄った。赤みがかった茶色で少しクセのある髪。浅黒く健康的な肌。
引き締まった口元。言わずもがな美少年である。
(綺麗・・)
ふとそんなことを思ってしまった自分に驚いた。今まで男を見て綺麗だとか、ステキだとか思ったことがなかった。男は皆、自分の身体だけを見ている醜い生き物。そう思っていた。
(どうしよう・・)
そう思いかけていた矢先、ハッと自分の指名を思い出した。慌ててソファのまえにひざまずき、救急セットからタオルを取り出した。幸い、どの部屋にも飲み水が用意されているので、少し悪いと思いながらもタオルに水を含ませた。絞る所がないため少しの水分しか含ませられないが、許してほしいと思う。

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