可憐な日々
「社長」

木目調の細長い机の向こうで、椅子を回転させ、

ブラインドを上げた窓から外を見つめながら、受話器に、耳を傾けていたが、

透き通った甘い声に、振り返った。

「ああ…優希か」

社長室のドアの前に、

スラッとした細身の体を、タイトな黒のスーツで覆っていた。

一礼すると、社長に微笑んだ。

「何度も、ノックしたのですが…返事がなかったものですから…、電話中だったのですね」

優希の言葉に、

「いや…」

社長は、携帯を耳から離し、画面を確認すると、

電話を切った。

「いいんだ…」

少し悲しげに、電話を切った社長の表情に、

優希は、ディスクにゆっくりと近づいた。

「今日も、通じなかったのですね…」

「ああ…」

社長は、椅子を前に向けると、携帯をディスクの上に置き…椅子に深々ともたれると、深いため息をついた。

「電話は、使われているんですよね…」

優希は、社長を見つめていた。

「今回は、つながったんだ…初めてな」

社長は、もう一度携帯に手をのばした。

「え」

優希は、予想外の言葉に驚いた。


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