可憐な日々
第5章 嘲り
「はい」

無愛想な口調で、サキは電話に出た。

携帯は便利だ。

相手がわかる。

まあほとんどは、仕事がらみだから、言葉遣いに気を使うが、

今回の相手は、別だった。
「…いつになったら、返事をくれるんだ?」

受話器から聞こえる男の、上からの口調に、サキは軽くキレていた。

「まだ…決めてないわ」

サキは、家にいた。

こじんまりしたマンションの一室は、質素であり、

何もなかった。

店への通勤を考えて、借りたマンションに、サキは愛着はなかった。

いずれは、ここを捨てて…水商売をした自分も捨てるつもりだった。

女の花は、短い。

それを如何に使うかが、女の度量と言えた。

周りで、枯れても、水商売を続ける女達…サキにはそんな生き方を、選ぶ気はなかった。

スナックのママなんて、サキには耐えれなかった。

若い女は、今の待遇がいつまでも続くと思う。

年老いても、昔にすがる女は…年老いた男達にもすがる。女であることだけを、武器にして。

サキは、すべてが…最低の馴れ合いだと思っていた。


なぜなら、サキの母親も、そんな女だったから。

女であることは武器になるけど…それにすがりたくは、なかった。

年ゆく自分…若さという必ず、過ぎ行くもの。

女であるとは何なのか……。

母親になったら…あたしは、変わるのだろうか。

だけど…自分の母親は…変わらなかった。

物思いに耽っていると、電話の声が、せかした。

「給料は、倍だそう…」


その言葉の後、適当に話して、サキは電話を切った。

この商売…金がすべてだ。

もう少しで、30になる。

それが、悪いのか。

歳を取ることが…悪いのか。

見た目は、若いサキは…見た目を保ちながら…止められない歳の足枷を感じていた。







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