可憐な日々
「これなんだが……」

校舎裏の影の中、稲田が差し出した学生証と名刺を、エイリは受け取った。

名刺はすぐにわかったが…学生証の名前…土田可憐には、見覚えがなかった。

しかし、すぐに写真を見て、眉をひそめた。


「本当は…学校か…警察に届けた方がいいんだけど…中学生だろ?いろいろ問題になりそうだし…。俺がバイトしてるのも…学校にばれたら…ヤバイしな」

稲田は、学生証を見つめるエイリの横顔を見つめ、

「いっしょに落ちてた…名刺。店の名前を見て…確か、お前がバイトしてるとこだと…」

「ああ…うちのバイトだ」

エイリは、名刺と学生証を交互に見た。


「名前…可憐っていっしょだろ?お前んとこって………ち、中学生を、や、雇ってるのかよ!そ、それって…」

興奮気味に話す稲田の言葉を、エイリが遮った。

「それはない」

きっぱりと言った後、エイリは稲田を見、

「それに…本名を使うホステスなんて、いないだろ?」

本当は、たまにいるのだが…。

「そ、そうだな!」

稲田は何度も頷いた。 


「多分…この子の姉だな…。妹の名前を使うホステスは、いるから…」

エイリはもう一度、名刺と学生証を稲田に示すと、

「俺から、返しておくけど…いいのか?」

最後の確認をする。

「ああ…お願いするよ」



エイリは受け取った学生証と名刺を、胸ポケットに入れた。

稲田と裏で別れると、エイリもまた歩きだしながら、考えをめぐらしていた。

「可憐と可憐……同じ名前」

偶然ではあり得ない。
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