可憐な日々
「!?」

安アパートの一室の前に立つ…グレイのスーツの男。

可憐には、見覚えがなかった。

そりゃあ〜そうだ。一ホステスの可憐が、オーナーと話すことはない。ホステスの相手は、店長がするものだから。


「可憐…」

オーナーは、学生証を可憐に示した。

「あっ!」

可憐は思わず、声を荒げた。

可憐は学生証に、身分証明書もいっしょにケース内に入れていたのだ。



なくしたことも、気付かなかった。

「ありがとうございます」

ただ届けてくれただけと思った可憐は、頭を下げ、オーナーから受け取ろうとした。

オーナーは、可憐をじっと見つめながら、

「智子は…元気にしてるのかい?」


「え?」

可憐は、思いも寄らない名前を言われて、動きが止まった。

学生証に手を伸ばしたのに、取れなかった。

オーナーは、家の中を見つめながら、

「何度か…電話をしているんだが……通じたことがなくてね。あっ!いや…この前、一度だけ通じたけど…声を聞かしては、くれなかった」

オーナーの言葉に、可憐は一瞬心臓が止まったように、思った。

(電話…通じた……)

母の電話帳に残されていた…たった一つのアドレス。

そのアドレスの意味は…一つしかない。



(お父さん……!?)

可憐は絶句した。


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