唯一の純愛

2015年1月17日追記

いつでも
どこに行くにも
何をするにも
私達は二人でした。

だからこそ今、一人でいることが何よりも辛く感じます。

私が鬱からくる不安で、全てから逃げ出したいと言った時、妻は理由も聞かず、どこ行きたい?と微笑みかけてくれました。

二人で電車に乗って遠くに行きたい、と私が答えると、妻は何も言わずに着替えを始めてくれました。

朝から二人で電車に乗り、今まで降りたことのない駅で降り、目的もなく散策しました。

わけもわからず、理由なき不安に怯えていた私でしたが、いつの間にか楽しくなっていました。

行き当りばったりで買い物をし、ゲームセンターで遊び、外食をし、歩き回り、疲れたらベンチに腰掛け、ペットショップに行き、気がつけば夜になっていました。

思えば久し振りのデートでした。
そしてそれが私達の最後のデートになりました。

自分で言うのもなんですか、私達は本当に仲が良かったと思います。
五年以上一緒にいて、喧嘩らしい喧嘩は数えるほどしかしていません。

小さな言い合いくらいはもちろんありましたが、大きな喧嘩は片手で余るほどのものです。

大きな喧嘩になると、私は決まって家を飛び出します。
もう絶対に帰らない、そう決めて飛び出すのですが、毎回小一時間ほどで帰ってしまいます。

帰ると妻は必ず、ただ一言、おかえりと言ってくれました。
その後は会議です。
そしてその日のうちに仲直りします。

その度に妻はこう言っていました。
あなたの帰る家はここ、私のところ。
絶対に帰ってくる場所なのは知ってる。

その通りだと思います。
どんなことがあっても、私は妻の元に帰ります。

なのに今は帰る場所がありません。
家はありますが、妻のいないこの家は、帰る場所ではありません。

待っていてくれる人がいない、待っていても誰も帰ってこない、それがこれほどまでに寂しいものだとは想像もできませんでした。

こんなに辛いとは思いも寄りませんでした。

あの満たされてた時間は、一体なんだったんだろう。
写真の中で、そして思い出の中で、変わらぬ笑顔を向けてくれる妻に問いかけます。
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