唯一の純愛
私にとっての妻は、太陽でした。
温かい笑顔で、いつも私を照らしてくれました。
私の冷えた心を、優しく温めてくれました。

私は妻にとって、月だったのだと思います。
暗い夜道を歩いてた妻の足下を、静かに照らす月でした。

私達は月と太陽。
コインの表と裏。
二人で一人。

妻が私の心を支え、私は妻の体を支え、そうやって支え合ってきました。
私達はお互いにお互いの欠けた半身、片割れでした。

私は妻にいろんな感情をもらいました。
そして私は妻が諦めていたいろいろな体験をさせてあげました。

障害を抱えてしまった妻は、本当にいろんなことを諦めていました。

手が震えてしまうのでお化粧もできません。
運動ができず、ダイエットができないためオシャレもできません。
心肺停止の後遺症で生殖機能を失い、子供を身ごもることもできませんでした。
同時に、ホルモンバランスが崩れ、ヒゲ等の体毛が濃くなりました。
もちろんムダ毛の処理もできません。

二十代にして、女としての楽しみを諦めざるを得ませんでした。

女性ならばその辛さは理解できるのではないでしょうか。

そんな妻に私は希望を与えました。

私と付き合い始めてすぐの頃、妻は長らく止まっていた生理を取り戻しました。

一時的なものでしたが、それでも妻には大きな希望となりました。

私の介助があれば遠出もできるようになりました。

安全な電動剃刀を買ってあげると自分でムダ毛の処理ができるようになりました。
ヒゲや眉は私が整えてあげました。

毎晩の散歩で少しずつ体重も落とせました。

さすがにメイクはしてあげられませんでしたが、妻に女としての喜びを取り戻させてあげられたと思います。

歩行器にフックを取り付けることで、お買い物も楽にらりました。

私と出逢うまで、誰一人そんな単純なことも思いついてくれなかったそうです。

誰も妻の抱えている苦悩と向き合ってくれていなかったのだと思います。

それはある意味、仕方の無いことなのかも知れませんが、妻にとっては一人の人間として見てもらえたようで嬉しかったと言っていました。

逆に妻は、私自身ですら気づいていなかった癖に気づいてくれたりもしました。

私は歩く時に、左足を僅かに引きずるように歩くのだそうです。
指摘された今でも自分ではわかりませんが、実際に左の靴の方がすり減りが早いのでそうなのでしょう。

そんな些細な癖に気づいてくれたのは妻が初めてでした。

お互いにちゃんと向き合っていたから気づけたことなのだと思います。

お互いがお互いを思いやれたから、私達には笑顔が絶えなかったのだと思います。
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