唯一の純愛
妻との日課であった深夜の散歩。
妻が亡くなった後も、私は日課として続けています。

その際、妻の歩行器を押して行く事があります。
歩行器の、ガラガラと鳴る車輪の音を聞いていると、まるで妻と一緒に歩いているような、そんな気がして、歩行器を押して行きます。

自分で押してみて、初めて気づいた事がたくさんあります。

確かに、傾斜や小石が怖い。
下り坂も怖いものです。
暗い夜道では尚更怖いです。

ましてや妻は、自身の手足すら信用出来なかったのだと思うと、その恐怖は計り知れないものだったでしょう。

それなのに、妻は文句も言わず、私と同じ距離を歩いていたのだと思うと、改めて妻の偉大さに気付かされます。

散歩が楽しみと言い、ニコニコしながら一緒に歩いてた妻を、心底尊敬できます。

もし、妻の存命中に気付いてあげられてたら、そんな後悔を拭い切れません。

私は今、歩行器で歩く苦労を、多少なりとも理解できました。
きっと、歩行器で歩いておられる方を見かければ、力を貸したいと素直に思えます。
そこに損得はありません。

それは、妻が私に遺してくれた優しさだと思います。
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