らぶ♂ちょい

意図したことではないけれど、西野さんに肩を抱かれるような形になった私を見て、明らかに顔つきが変わった。


「どうかしたのか?」

「あ……えっとね、ちょっと話が出来ないかなって思って」


腕時計を見ると、時刻は夜の8時半。


西野さんを待って、こんな時間まで残っていたんだ。


「悪いけど、今夜はコトリちゃんとの先約があるんだ」

「あ、あの……私のことなら別に……」


約束したというほどのことでもないし。


遠慮したのに。

私をさらにギュッと引き寄せて、「それじゃ」と千里さんの横を通り過ぎた。


「……え、あ、あの、本当にいいんですか?」


小声で問い掛ける。

その横顔を見つめたけれど。


「コトリちゃんは気にするな」


後ろから突き刺さるような視線を感じたまま、エレベーターへと乗り込んだ。

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