うそつき執事の優しいキス
「……いません」


 多分、きっと。宗樹だって逆らうのは無理そうだもんなぁ。


 わたしが何も言えずにいたら、井上さんは『じゃあ決まり!』って、笑ってそのまま手を取り、教室を出た。


 その途端!


 西園寺さんが出て来た~~!


 なんて、声が響いて皆がわたしに集まって来る。


 その数、何人よ!


 きゃ~~!


 わたしだったら、絶対人ごみに埋もれて、出て来れなかったろう。


 でも、井上さんは見事なフットワークで、ひょいひょいひょい、と部活勧誘のヒトビトの間を駆け抜けた。


 そしてあっという間に、旧校舎にたどり着いたかと思うと、慣れた手つきで準備室の扉を開け……


 あ、中にいるの宗樹だけだ! と思った瞬間!


 井上さんは、わたしを準備室に、放り込んだ。


 まるで、荷物みたいに、ぽーーーいと。


 確かにねっ!


 追いかけて来る人多かったし!


 そうでもしなくちゃ捕まっちゃうから仕方がないんだけど!


 ちょっと、乱暴すぎやしない!?


「きゃあわわわっ!」


 大きくバランスを崩して、わたし、盛大に転んでしまい……


 あれ? 大丈夫だ。


 井上さんに、ほとんど突き飛ばされた形になった、わたしを宗樹がしっかりと受け止めてくれたから。


 ただし、ものすごく、不機嫌そうに。
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