うそつき執事の優しいキス

 は……ははは。


 お役目って! いや、全くその通り以外のナニモノでもないんだけど……!


 西園寺、嫌いだって、そりゃあ……ね。


 この、短い期間だけど宗樹を見れば、良く判る。


 彼、小さな時から、苦労してるんじゃないかな、って。


 ピアノや、バイクや、マネージメントの他にも、きっとまだ西園寺の執事になるためには、きっと、習わなくちゃいけないことがたくさんあって。


 自分の自由時間を削って、腕や才能を磨いても、その全てを西園寺の主人に奪われる。


 そんな中『なんにも知らない』ことになっている、自由な高校生活に、未来の主人になるはずのわたしが来ては……いけなかったんだ。


 本人も、軽音部には来るな、って散々言ってたじゃないの!


 ここに、わたしがいちゃ、宗樹の邪魔だ……!


 ますます切なく、痛んで来る胸を抱え、わたしはなんとか笑って抱えられた宗樹の腕から逃げた。


「藤原先輩、わたしを受け止めてくれて、ありがとう。
 もう、どっか行くね?」


「ちょっ……!
 行くって、どこに……!?
 まだ、外にはヒトが一杯いるよ?
 からかい過ぎちゃったなら、ごめんね?
 昼休みの間は、一緒にいようよ」


 井上さんは、そう言ってくれたけど、わたしはごめんね、って頭を下げた。
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