うそつき執事の優しいキス
 新校舎と繋がる渡り廊下の上で、とうとう、わたし取り囲まれちゃった。


 な……なんか、朝より人数増えてない?


 たじたじと、後ろに後差ずれば、ごん、と壁にぶつかってさらにヒトの輪が狭まってくる。


 こっちに向かってやって来るヒトたちは、みんなにこにこと笑ってたけど……すごく怖い。


 わたしの相手ばかりじゃなく、一人、一人が他の部活のヒトに出し抜かれまいと、必死なんだ。


 この緊張感だけでも、死にそう。


 しかも、集まってる集団に打ち合わせも、司会も無く。


 皆が口々に勝手に希望を言ってくるから、あっという間に収拾がつかなくなった。


「西園寺さん」


「西園寺さん!」


 一杯名前を呼ばれて、是非、ウチの部に来て、なんてお願いされて。


 でもわたし、何にも出来なくて……っ!


 誰の言葉にもこたえられずに、目をぎゅっとつぶった時だった。


 すぐ近くで、がおんっ! っていう獣の咆哮を聞いたような気がした。


「おら! 西園寺理紗はオレサマが預かったって、言ったはずだよな!?
 聞けねぇヤツは、マジで潰すぞ!」


 聞き覚えのある、元気な声にそっと片目を開けると……


 そこに、神無崎さんがいた。
< 144 / 272 >

この作品をシェア

pagetop