うそつき執事の優しいキス
「ん~~そこ座って昼飯にしろよ、西園寺」


 って、指差した所は、神無崎さんの向かいじゃなく隣だ。


 これは……向かい合って座ると前に広がる一面の海が見辛いから……かな?


 普通に座れば、一人ははうっそうとした植え込みを眺めるコトになりそうだし、ねぇ。


 そう思ってわたし、何の疑問も無く神無崎さんの隣に座り、お弁当を開けた。


 と。


 出て来たお弁当を見て、神無崎さんが軽く口笛を吹く。


「西園寺の弁当、すげー!」


 どっかの料亭の弁当みてーなんて言う、神無崎さんに、わたしは首をぶんぶんと振った。


「……い、いえウチのヒトが作ったのをそのまま持って来ただけで……」


 いきなり西園寺のお抱えコックが作りました、なんて言えず。


 首を横に振ったら、神無崎さんの目がすぃ、と細くなった。


「ふーん。
 お前ん所の今の料理長って、長野結衣ノ介(ながのゆいのすけ)だっけ?
 やっぱ西園寺家って、腕の良いシェフを使ってるよな」


「……え」


 まさか、ここでウチのコックさんの名前を言い当てられるなんて!


 思いもよらないことに目を見開くと、神無崎さんがふ、と笑う。
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