うそつき執事の優しいキス
 今日の宗樹は、わたしの登校風景をニ回見て、多分三回目もダメだろーとか踏んで最初から助けた、って感じではなかった。


 宗樹は、わたしの肩を抱いて、ものすごい速さで移動しながら、一言もしゃべらなかった。


 見上げれば、今日の宗樹は今まで登校途中で見せていた『フツーの高校生』でも『執事の無表情』でもなく。


 明らかに怒った顔、してる。


「えっ……えええっと、宗樹、どうしたの?」


「………」


 何に怒っているんだろう?


 戸惑って宗樹の名前を呼んだけど、彼は返事をしてくれなかった。


 その代わりに、みたいに宗樹はわたしを抱きしめる。


 この二日間に比べ、明らかに空いているはずのJRの駅と電車の隅で、宗樹は今までと同じように……ううん、もっと強く、痛いほど。


 人ごみに流されることもないし、無理に押し込んで来る人もいないから、こんな風に、何かから守る必要はないのに……


 それでも、宗樹は黙って抱き締めていたけれど、神無崎さんが、わたしの肩を抱いた時と、全く違う感じがした。


 笑ってる神無崎さんより、怒っている宗樹の方が安心なのは、なんでだろう?


 それは、多分……おそらく……きっと。


「わたし……宗樹のコト……好きなの……かも……知れない」


 ぼんやりつぶやいた言葉が聞こえちゃったのか、どうか。


 また少し、強く抱きしめなおした宗樹の腕の強さとあったかさが安心で。


 今はそれどころじゃないってコトは頭では判っていたけれど、なんだか眠くなってきた。

< 159 / 272 >

この作品をシェア

pagetop